2022年2月、渋谷駅周辺に掲出されたTinderとNetflixリアリティシリーズ「ラブ・イズ・ブラインド JAPAN」のコラボ広告がSNSを中心に話題になりました。
「Tinder」は多様な出会いや新しいつながりを提供しているマッチングアプリ。一方、「ラブ・イズ・ブラインド JAPAN」は、オンラインストリーミングサービスNetflixで配信している婚活リアリティショーです。一見すると共通点のない両社によるコラボ広告は、まるで両社が互いのサービスについて喧嘩をしているようなコピーが印象的で、渋谷のZ世代中心に注目が集まりました。
今回、Tinder Japanの久次米様に、広告キャンペーン実施の経緯や企画から制作、実施までの流れや裏話などをうかがいました。
――まず、「Tinder」というサービスについて簡単に教えてください。
Tinder(ティンダー)は、相互に関心をもったメンバー同士でコミュニケーションをとることが出来る、世界最大級のソーシャル系マッチングアプリです。
世界各国で利用されており、利用者の半数はZ世代と呼ばれる18歳~25歳です。他のマッチングアプリに比べても若い世代の方にご利用いただいています。
――今回コラボした「ラブ・イズ・ブラインド JAPAN」という番組についても簡単に教えて頂けますか。
「ラブ・イズ・ブラインド」はNetflixのオリジナル作品です。番組内で男女が相手の顔を見ずに会話をして、対面することなく婚約者を決めるという斬新な内容となっています。元々はアメリカ発祥の番組で、2022年2月にNetflixで日本版の配信が始まりました。
――他の恋愛を題材とした番組とは何が違うのでしょうか。
恋愛番組によくあるようなドキドキする展開はもちろんあるのですが、「ラブ・イズ・ブラインド」は、見終わってから人のことを外見や肩書や仕事などで簡単にジャッジしちゃいけないな…と“出会い”について、とても考えさせられました。
取材の様子
番組を見ていて、“出会いの力”ってすごいなと私自身の価値観も変わりました。そう感じさせられる部分は従来の恋愛番組とは違う点だと思います。
――この番組とコラボレーションを実施するまでには何かキッカケがあったのですか?
実はTinderもNetflixも同じアメリカ・カリフォルニア発の企業です。日本でサービスを展開している共通点から、一年前から何か一緒にできないかとカジュアルにお話をさせていただいていました。
今回のキャンペーンをやろうと決定したのが2021年の年末で、キックオフしたのが2022年の正月頃です。短い期間ながらチーム一丸でアイディアを出し合い、コンテンツを作っていきました。
ちなみに今回の企画は日本限定で、本国でも実現していないコラボレーションです。
――TinderとNetflix、傍から見るとかなりビックプロジェクトのように思いますが、結構タイトなスケジュールで準備されてきたのですね…!
そうですね。結局キックオフから6週間でキャンペーンがスタートしました。
SNSでは、「大手の代理店様がやっているのでは?」と予想した投稿も数多くみられましたが、今回はとても少人数で、顔の見えるコミュニケーションをしながら短時間で進めてきました。
――今回の広告では、ラブ・イズ・ブラインドとTinderがちょっとした喧嘩をしているような見せ方になっていましたね。一見すると相性が悪そうな印象でしたが…。
Tinderでは、最初の「合う・合わない」のジャッジを、相手のプロフィール写真やプロフィール文で判断していくので、ラブ・イズ・ブラインドの「相手の外見を全く見ずに出会う」世界観とは一見すると真逆です。
喧嘩しているように見えますが…
最終的には仲直りしています。
ただ、Netflixのチームと話を重ねる中で「出会いに対する固定観念を解放し、出会いには様々な入口があること、そしてその先では多様な価値観に触れられる」という点では伝えたいメッセージが同じであったことに気が付いたんです。
実際、Tinderではあえて細かいプロフィールを設定できないようにしており、相手のことを肩書やステータスでジャッジするのではなく、自分の直感を信じて「この人いいな」と思ったら一回会ってみるという流れにしています。
どういう出会いになるかわからないワクワク感を楽しんでほしいという価値観、これが一見すると真逆に見えた両サービスの共通点であり、伝えたいメッセージとなっています。
――今回の広告の反響はいかがでしたか?
ある議員さんがTwitterで「渋谷センター街でTinderとNetflixが喧嘩してる」とつぶやいてくださったのをきっかけに広く拡散されました。その日の日本で一番リツイートされたツイートにもなりましたね。
センター街でTinderとNetflixが喧嘩してる pic.twitter.com/qb9kxCpMTZ
— 橋本ゆき@渋谷区議会議員 (@yuki_12hsm) February 17, 2022
今回の広告で「初めてTinderを知った」といったツイートも数多くありました。「ラブ・イズ・ブラインド」のファンの方がTinderを、Tinderのメンバーが「ラブ・イズ・ブラインド」をそれぞれ知るきっかけにもなっていたのも良かったポイントです。今までリーチできなかった層にリーチできたと思います。
――やっていく中で大変だった点はありますか?
マーケティングに関しては、チームワークで楽しく進めていたので全然大変ではなかったです。大変だったとすれば、開発も絡んだ、Tinderアプリ内での施策ですね。
今回のキャンペーン中、「ラブ・イズ・ブラインド JAPAN」のチームと一緒に作ったQ&Aをアプリ内で配信したり、TinderアプリからNetflixの作品ページへ遷移できるようアプリ内の導線調整を行っていました。Tinderでは、アプリのエンジニアが本社(アメリカ)にしかいないので、施策の企画と開発を短期間で行うのは正直大変でした。
――今後もコラボレーションをやられていく予定はありますか…?
そうですね。色んな可能性は模索していきたいです。
今回の施策では、日本国内でコラボレーションによるマーケティング手法はまだまだ主流ではないこともあり、物珍しさからSNSで数多くの投稿や拡散がありました。
Tinderのような“マッチングアプリ”はまだまだマーケティングが難しいカテゴリーでもあります。広告が出せる面も限られますし、伝えたいメッセージをストレートに伝えきれていないのが現状です。ただ、今後もメンバーが“あっ”と驚くような、新しいマーケティング手法には積極的にチャレンジしていきたいですね。
――今後の展開をお聞きできればと思います。2021年9月に実施されていたOOHも話題となっていましたが、やはり次もOOHで何か検討されているのですか?
OOHはあくまで1つの手段として考えています。TinderのターゲットとするZ世代に訴求できる形であれば、媒体や手段は問わず模索していくつもりです。とはいえ、OOHは私たちが好きな媒体でもありますね。
今まではOOHを使って、いわゆるソーシャルバズを起こすことで、Tinderが発信するメッセージに注目を持ってもらう手法をとっていたのですが、それ以外のOOHの使い方も模索中です。OOHはいろんな可能性がある媒体だと思うので、引き続き積極的に使っていきたいですね。
新型コロナ流行前に比べ、オンラインでのコミュニケーション機会が圧倒的に増えたことで、リアルでの対面コミュニケーションの価値が上がってきています。特に、デジタルネイティブなZ世代の間では、よりリアルで対面する重要度が高まっているようにも感じています。
そんなZ世代にTinderというサービスを知ってもらいつつ、素敵な出会いの機会を提供できるのであれば私たちとしても嬉しい限りです。
過去にTinderの広告についてのインタビュー記事を掲載しておりますので、こちらも併せてご覧ください。
渋谷のTinder広告、強烈なコピーに込められた想いとは
広告仕掛人の皆さん
郡様、長島様、グスタヴィッチむつみ様(KOORI Inc.)
テリー・サイ様、伊藤様、内藤様(Netflix)
チョウ・キョ様、久次米様、小松様(Tinder)