2020年12月に株式会社野村総研研究所から発表された統計によると、日本国内における富裕層・超富裕層と呼ばれる2019年の世帯数は2005年以降最多となったそうです。保有資産が1億円以上5億円未満の富裕層で124.0万世帯、保有資産5億円以上の超富裕層で8.7万世帯となり、合わせて132.7万世帯と推計されています。この132.7万世帯という数字は、2005年以降で最も多かった2017年の126.7万世帯よりも6万世帯も多い数字で、直近15年間を見ても最多となっています。
出典:日本の富裕層は133万世帯、純金融資産総額は333兆円と推計-野村総研研究所
マーケティングにおける富裕層は保有する資産や年収が多く、一般のサラリーマン家庭に比べると自由に使えるお金が圧倒的に多いため、ターゲティングの対象としては非常に魅力的です。このように考える企業は多く、富裕層に向けた様々な商品・サービスの広告宣伝が日夜繰り返されているため、富裕層が受ける営業活動(DMやポスティングなどの広告宣伝を含む)は計り知れない数と言われています。
富裕層は一般の消費者に比べると、通常の広告宣伝に対する警戒心や嫌悪感が強く、商品・サービスの購入に慎重な人がほとんどです。資産があるからと言って、商品・サービスの購入に対して即断即決のイメージでアプローチすると痛い目に遭う、ということです。とは言え、マーケティングにおいて魅力的なターゲットとなり得る富裕層を無視する訳にもいきません。
今回はそんな富裕層に特化したマーケティングの考え方や手法、『富裕層マーケティング』について解説していきます。
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富裕層とは?
そもそも富裕層とはどういった人たち(世帯)を指すのでしょうか。
一般的には年収1,000万円以上の人に対して富裕層という言葉が使われることが多いようです。ことマーケティング業界においては、世帯年収3,000万円以上、かつ、不動産を除く保有資産が1億円以上の世帯を富裕層として定義されています。
この富裕層は都市別で見ると、東京都、愛知県、神奈川県の順に多く、この1都2県で全国の約40%を占める割合となっています。また、関西圏ではシニア世代の富裕層が他府県に比べると多い傾向にあるようで、富裕層マーケティングにおいてはこういった都市による富裕層の違いも把握しておくことが重要です。
富裕層の分類
富裕層は富裕層予備軍を含め4つのカテゴリに分類されています。
富裕層予備軍に含まれるアッパーマス層に関しては、年収500万円と一般職のサラリーマンでも到達が可能な年収であるため、富裕層マーケティングのターゲティング対象とはなり得ません。今回は富裕層予備軍を除く、超富裕層・富裕層の中でも保有資産1億円以上、世帯年収3,000万円以上を『富裕層』と定義して、増え続ける富裕層にターゲティングした富裕層マーケティングについて解説していきます。
出典:日本の富裕層は133万世帯、純金融資産総額は333兆円と推計-野村総研研究所
富裕層マーケティングとは?
前述の通り、富裕層は新しい商品・サービスの購入に慎重な傾向にあります。そのため従来のマーケティング手法とは違った、富裕層に特化して有効な富裕層マーケティングについて考える必要があります。
富裕層に共通の特徴として、信頼できる人(企業)から商品・サービスを購入する点、モノ商品よりもコト消費を重視する点、が挙げられます。信頼できる人(企業)と言っても『Aさん(富裕層)と仲の良いBさんに商品を紹介してもらおう!』といった営業活動は多くの企業にとって容易ではありません。そこで富裕層の警戒心を解く有効的な手段として、富裕層が自らの意思で購読している会報誌を利用したマーケティングなどがあります。
お金に余裕のある富裕層は、モノに対する所有欲が資産と反比例する形で減り、対して滅多に体験できないようなコトに対する興味・関心が高くなる傾向にあると言われています。そのため、ただ商品を販売するだけでなく、『今ここでしか体験できない何か』をアピールすることで、富裕層の興味・関心を惹くというマーケティング手法も有効です。
富裕層の行動特徴
上記富裕層の分類に加えて、富裕層マーケティングを考える上で、大きく2つに分けられる富裕層の特徴が非常に重要となります。
オールドリッチ
オールドリッチは古くから潤沢な資産を持っている家系の人、およびその家長のことを指します。親から子に資産が引き継がれるため、富裕層マーケティングの対象となる人は60代~70代と比較的高齢の人が多い傾向にあります。
資産を代々受け継ぎ、維持・増長させてきていることと、受け継ぐ年齢が高齢となるケースが多いため、消費に対しては消極的で、受け継いだ資産を減らさないことを重視する保守的な人が多いと言われています。
ニューリッチ
ニューリッチはオールドリッチとは対照的に若くして一代で財を成した人のことを指します。多くはIT分野などを中心にベンチャー企業の経営者や投資家などで、オールドリッチとは違い30代~40代の比較的若い経営者・実業家がほとんどです。
これからの人生をより豊かにすることに前向きで、必要な投資は惜しまない人が多いため、消費や資産運用に対して積極的な人が多くを占めます。
スポーツ選手、芸能人など
上記のオールドリッチ、ニューリッチどちらにも当てはまらないタイプの富裕層としてスポーツ選手や芸能人などが挙げられます。
一代で財を成したという点で見るとニューリッチに近い人たちですが、人に見られる職業の人が多く、その他の富裕層と比べるとファッションやブランド、車など自身の見た目に対する消費に積極的な点が特徴です。
最近では引退したスポーツ選手が企業や投資など実業家として活動するケースも増えてきており、消費のみではなく資産運用に対しても積極的な人が多い傾向にあります。
富裕層マーケティングの手法
富裕層は多くの商品・サービスのターゲットとされるため、一般のサラリーマンとは比較にならないほど日々多量の広告宣伝に晒されています。そのため、テレアポや飛び込み営業を代表とする『プッシュ型』のアプローチに対して非常に警戒心が強く、新しい商品・サービスを紹介する有効的な手段が限られています。
富裕層(特にニューリッチ)は知識欲が高く書籍など活字に普段から慣れ親しんでいることから、WEBを中心としたマーケティングではなく、オフライン広告を含めて手に取れる活字を利用するマーケティングが有効とも言われています。また、富裕層はオープンでない富裕層同士の閉じられたコミュニティが生活の中心となっていることも多いため、会報誌のようにクローズドなメディア(会報誌など)で警戒心を取り除く方法も有効です。
富裕層は情報の信頼度を重要視する傾向にあり、専門性=信頼と考えることが多いため、会報誌の中でも専門性の高い専門誌に親和性の高い広告を出稿するマーケティング手法も効果的です。
リアル広告・オフライン広告(マンションポスティング、会報誌など)
広告物を直接手元で確認・保管できるオフライン広告は、その他のマーケティング同様、富裕層マーケティングにおいても一定の効果が期待できます。
中でも、富裕層にターゲティングを絞って広告宣伝が可能なマンションポスティングや会報誌への広告出稿などが富裕層マーケティングにおいてよく利用されています。マンションポスティングは富裕層が多く居住している都市部の一等地にあるマンションや高層マンションに絞って広告物を直接配布する手法です。世帯毎の詳細な情報がない状態でもマンションの立地や階層などで富裕層へリーチすることができるため、富裕層マーケティングにおいては非常に有効な手段の1つです。デメリットとしては、マンションによってはセキュリティが高く広告物の配布自体が難しい場合もあることなどが挙げられます。
マンションポスティングのデメリットを補うマーケティング手法として、会報誌などへの広告出稿も富裕層マーケティングではよく利用されています。ターゲットが自身で登録した会報誌への広告出稿とあって、高い興味・関心が期待できる点や会員情報を元に詳細なターゲティングが可能な点が最大のメリットです。会員情報が手元にある企業への協力依頼が必要なためマンションポスティングに比べるとコストは高くなりますが、開封されずに廃棄されるリスクもなく非常にアピール力の高いマーケティング手法です。
デジタル広告・オンライン広告(リスティング広告、SNS広告など)
必要な情報を自身で調べることも多い富裕層にとって、WEBは重要な情報源でもあります。そのため、富裕層マーケティングにおいてもオフライン広告とオンライン広告の併用や、場合によってはオンライン広告のみの利用でも高い効果を発揮するケースもあります。
オンライン広告はインターネット上のユーザーデータを利用してターゲティングする広告手法がほとんどのため、ターゲットが限定されている富裕層マーケティングにおいても使い方次第では高い効果が期待できます。Googleがディスプレイ広告やリスティング広告の中で提供している世帯収入でターゲティングできる機能は、富裕層マーケティングと非常に高い親和性があります。Yahoo!広告ではエリアターゲティングが可能なため、マンションポスティングと合わせて富裕層が多く居住している地域に向けた広告配信を行うことでネットとリアル、2方向から富裕層へアプローチすることも可能です。
その他、取締役や役員、オーナーなどユーザーの役職でのターゲティングが可能なFacebook広告や、富裕層に向けたWEBメディアなども富裕層マーケティングにおいてしばしば利用されています。WEB系の広告については、下記記事をご覧ください。
>WEB広告とは?その種類や課金方式、概要について徹底解説!
まとめ
富裕層とは一般的には年収1,000万円以上の人(世帯)を指すことが多いですが、マーケティング業界においては4つの分類にカテゴリ分けする考え方が主流です。
富裕層マーケティングにおけるターゲットとしては、富裕層予備軍を除いた超富裕層と富裕層の人(世帯)が中心となります。富裕層マーケティングのターゲットとなり得る超富裕層・富裕層は、その資産形成の時期や方法によっていくつかのタイプに分けられ、タイプ毎に効果的なマーケティング手法が異なります。
オールドリッチは比較的消費活動に対して消極的かつ資産運用にも慎重な人が多い傾向にあります。対してニューリッチは自身に対する投資などには積極的な人が多く、様々な商品・サービスのターゲットとして適しています。スポーツ選手や芸能人のように露出の多い富裕層はファッション・ブランド・車など消費活動に非常に積極的な点が特徴です。
富裕層マーケティングの手法としては、エリアを絞って広告配布を行うマンションポスティングや、富裕層の興味のあるジャンルに絞ってターゲティングを行う会報誌への広告出稿などが効果的です。一般のサラリーマン家庭に比べると圧倒的にセキュリティが高いため、配布が難しいケースもあるというマンションポスティングのデメリットに対して、セキュリティや富裕層の警戒心をクリアできる会報誌の利用は多くの企業に幅広く利用されています。
活字に抵抗の少ない富裕層に対しては、手元に残せて反復性が高いオフライン広告が有効と考えられていますが、ターゲットによってはオンライン広告との併用や、オンライン広告のみの利用の方が適している場合も少なくありません。富裕層予備軍と呼ばれる準富裕層やアッパーマス層に対しては、一般家庭同様、オンライン広告も一定の効果が期待できると言われています。富裕層予備軍ではある準富裕層やアッパーマス層ですが、この富裕層予備軍から富裕層へとステップアップする人の数が増えていることも近年の富裕層増加の一端を担っているため、富裕層マーケティングにおいても無視できない存在となりつつあります。
このように富裕層の中でも具体的にどの層にリーチしたいのか、どういった属性を持つ富裕層にリーチしたいのか、などによってどのマーケティング手法が最適かは大きく異なります。
富裕層をターゲットとして商品・サービスをいかに販促・販売するかを総合的に考え、実施する富裕層マーケティング。今後ますます増加すると言われている富裕層。この富裕層に対する自社の販促活動の最適解(富裕層マーケティング)を、これを機に今から模索してみてはいかがでしょうか。