2021年9月上旬頃、渋谷エリアで展開されたTinderの広告を知っていますか?処方箋との掛け合わせでサービス価値を再定義したクリエイティブ、駅前に現れた強烈なメッセージはTwitterを中心に大きな話題となりました。
今回、Tinder Japanの久次米様と制作を担当したCAMOUFLAGE inc.の石山様に、広告の意図や想い、制作の裏話などうかがいました。
――Tinderのサービスについて教えてください。
Tinder(ティンダー)は、2012年当時流行っていた「婚活サイト」をより簡易的にしたようなサービスとして、アメリカのカリフォルニア大学の学生によって生み出されました。相互に関心をもったユーザー同士の間でコミュニケーションをとることが出来る、世界最大級のソーシャル系マッチングアプリです。
利用者は、Z世代と呼ばれる18歳~25歳が約5割を占めています。この傾向は、日本だけでなくグローバルでも共通です。他のマッチングアプリに比べても、かなり若い世代の方にご利用いただいています。
――Tinderと他のマッチングアプリは何が違うのですか。
他のマッチングアプリが“たった一人”との出会いを求めるサービスであれば、Tinderでは、恋活・婚活目的だけではなく、多種多様な出会い・より生活が豊かになる出会いを促しています。
ご存じの通り、日本国内には多くのマッチングアプリがあります。多数あるマッチングアプリで共通しているのは異性間の出会いを重視しており、「恋活・婚活メイン」である点です。その多くは、男性有料・女性無料でサービスを展開されています。
一方、Tinderは男性と女性のマッチングはもちろんですが、同性間でのマッチングも可能です。例えば、新しい土地に引っ越して友達を探したり、人脈を広げる目的で使うのももちろんOKです。
Tinderの想い
Tinderは“たった一人”のOnly oneに出会うためのサービスではありません。良い出会いもあって、悪い出会いもある。色々な人の価値観や考え方、生き方に出会って最終的に未来の自分が作られていく、というのをZ世代の方に伝えていきたいと思っています。
そうした背景もあり、「Tinder=多種多様な出会いをもたらすアプリ」であることを伝えるべくブランディングを進めています。
――ブランディングの場として、渋谷を選んだ理由について教えてください。
主に理由が2つあります。
1つが、渋谷が国内有数のTinder利用エリアでアクティブユーザーが多いからです。今回の企画では、ブランド認知が高いエリアでメッセージを発信することで、UGC(※)の最大化を狙いました。
※UGC(User Generated Content):企業ではなく消費者個人がインターネット上に作成・発信するコンテンツ。Twitterで言えば、各ユーザー自身のツイートを指す。
取材の様子
2つ目が、成長段階の我々にとって渋谷駅一等地、いわばプレミアムなスポットに広告を出すこと自体に価値があると考えていたからです。朝のニュースでも映り込むことが多い東京の中心地、その駅構内に広告を出した実績こそ、プロダクトの信頼性向上に繋がると思っています。
――渋谷の複数箇所でそれぞれ異なるクリエイティブを展開されていました。まず、渋谷駅前で展開したビジョンと看板のメッセージに込められた想いについて教えてください。
渋谷駅前については、Z世代、特にアプリを使用したことがない方々を対象に「なぜ今Tinderなのか?」と考えていただくきっかけになるようなメッセージを発信しています。
良くも悪くも、認知がある事でTinderのイメージが固まっている方も多い渋谷エリアです。メッセージとはいえ、ただ綺麗な文章を並べて「Tinderが何綺麗ごと言っているの?」と言われて終わるのでは発信する意味がありません。
渋谷の玄関ともいえるこの場所で、100%ポジティブな意見しか生まれない優等生コピーはふさわしくないと考えていました。
――確かに、「どこかにいい人いないかなーって、一生言ってな。」は賛否含め様々な意見がありましたね。私的には、まるで右に強烈なパンチを食らったような印象でした。
ありがとうございます(笑)
どんな人にも、出会いに対して能動的でない・積極的でない部分はあるのではないかと考えていまして。行動を起こすべきだと認識しているものの、足踏みしている方は多いのではないか…そう考えた時、思わず“これ私のこと?”と思わせられるような部分は万人に共通するインサイトとしてあると考え、このコピーを選定しました。
ちなみに、「どこかにいい人いないかなーって、一生言ってな。」というコピーは、本当にTinderらしいコピーだと思っています。社内でも満場一致でした。
――続いて渋谷駅構内の広告について、想いや広告の意図を教えてください。
もともと30m規模の面に出す事は決まっていました。この規模になると、サイズだけでインパクトが出ますし、周辺交通量が多くリーチ数も狙えます。とはいえ、歩行中のユーザーはちゃんとしたものを作らなければ誰も見向きしてくれません。
Only oneの出会いではなく、多種多様な出会いを提供するTinderの価値をどう伝えるかと考えた時に、ストレートに伝えるのではなく、何か別の表現が出来ないかと考えていました。
今回、処方箋の切り口にしているのは、マッチングアプリの広告に処方箋という全く別要素を組み合わせることで面白いコンテンツが出来るのではないかと思った部分が大きいです。Tinderの提供する価値を“効き目”として表現することで、ユーザーに面白がってもらえるのではないかと思いました。
「18歳未満の方はご利用できません。」の記載についても、絶対に入れるべき文言ではあるものの、ただの注意書きで収まるのは勿体ないと思っていました。この記載含めて1つのクリエイティブになるよう「用法・用途を守って正しくお使いください。」の文言を加え、よりリアルに処方箋っぽく表現する事を意識しています。
「既読スルーされた後に。」など、真ん中のコピーがそれぞれ異なる内容になっています。
コピーを考えている時、「これ、わかるわ!」「確かに!」と面白いコピーは話が膨らむんですよね。一方で、これは良い感じだと思ったコピーでも、全く話が膨らまないケースも結構ありました。話が膨らまなかったものについては、ストーリーが内包されていない分、掲載しても何も感じてもらえないだろうと外しています。
全部で8コピーあるのですが、ユーザーによって関心の高いジャンルが異なってくると考えていたので、「恋愛」「友達」「推し」…といったように、それぞれ角度の異なる内容を選定しています。この8コピーにたどり着くまで、少なくとも100コピー以上は考えていますし、ブラッシュアップも繰り返しましたね。
ちなみに、Twitter上でも指摘がありましたが、やはり駅広告の審査については厳しい一面もありました。マッチングアプリで駅構内のOOH事例がなかったこともありますが、鉄道会社側とは何度も調整を繰り返しました。
――確かにマッチングアプリで駅OOHは見た事ありませんね。他に前例がない分インパクトは強烈でした。駅から少し離れたエリアで展開したポスターについてはどういった位置づけだったのですか。
渋谷周辺のストリートで掲出した、水原希子さん起用のポスターについてはTinderのブランド色を強めたクリエイティブになっています。
駅前の展開とは異なり、全面的にブランドカラーを使ったデザインで、コピーも全てブランドのステートメント中心になっています。さすがにこの展開を渋谷駅前で実施すると、ユーザーが息苦しさを感じてしまう部分があると感じていましたので、渋谷駅からは少し距離を置いた位置での展開としています。
全ての広告に共通して言えるのですが、全国的に見てもTinderに対する認知度がかなり高い渋谷でどのようにターゲット層とコミュニケーションを取っていくのかを、常に課題意識として頭に入れながらクリエイティブを制作しています。先ほどお伝えした通り、認知がある事で、良くも悪くもTinderのイメージが固まっている方も多いですので。
あと、Tinderとして新しいライフスタイルの提唱をOOHで展開していく上で、どうしてもビジュアル重視のクリエイティブだけでは上手く表現できず、想いの伝わり方が弱くなってしまう部分は感じていました。なので、クリエイティブのコピーは特に重要視し、検討を進めました。
――TwitterのUGC含め、広告展開後の反響はいかがでしたか。
数値については非公開ですが、広告展開後の会員登録数は順調に増加しています。
実は、今回含め過去3回、同様のブランドキャンペーンを実施しています。1回目はクリエイティブのカッコよさ、2回目は水原希子さんと組ませて頂いたことによる意外性、そして今回は、顕著にブランドメッセージ自体が話題になっている事が特徴です。
(左)2019年渋谷駅前の広告
(右)2020年水原さんブランドアンバサダー就任
TwitterでのUGCについて過去2回と比較しても、Tinderブランドに触れた投稿が圧倒的に多く、質が高い投稿が多いのが特徴です。
Tinderのようなマッチングサービスは、広告が出せる面やクリエイティブ表現が限られており、我々が思うように広告を自由に出す事は出来ません。だからこそ、“第3者にブランドについて語ってもらう”ことは、私たちが大切にしている新規ユーザーへのサービス理解の促進に繋がりますし、今後も重視していきたいポイントの1つです。
――大掛かりな展開だったかと思いますが、いつ頃から企画や今回の広告を計画されていたのですか。
年始くらいからですね。毎年同じくらいの時期から企画の検討をスタートしています。
3年前に比べても、マッチングアプリを取り巻く環境がかなり変わっています。その年の傾向、世間の動向に合った施策を検討しています。
――今回でブランドキャンペーンは3回目との事でしたが、来年度以降の展開はどう考えていますか。今後の方針について教えてください。
今までのコミュニケーションは、どちらかというと“マッチングアプリとは?”の部分にフォーカスした内容が中心でした。ただ最近では、ある程度マッチングアプリに対する理解も広がってきているので、今後は“どういう時に”、“どう使うか”について、もう少し幅広くコミュニケーションを取っていきたいと考えています。
引き続き、Z世代中心に、そしてどうしたら女性にもっと安心して使って頂けるかも含め検討していきたいと思っています。
広告仕掛人の皆さん
久次米様(Tinder Japan)、石山様、山科様 (CAMOUFLAGE)、片岡様(navy)、真木様(GOOD PLAN)、三田様、 齊藤様、守屋様、山口様(ADKマーケティング・ソリューションズ)、茂木様(フリー)、大井様(大井商店)、稲留様(ギークピクチュアズ)、佐藤様(ギークピクチュアズ)