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タイミーブランド戦略の舞台裏 渋谷の“スキマ”で魅せた可能性
スマートフォンの普及により、私たちの生活は大きく変化しました。そして今、「働き方」にも革新の波が押し寄せています。その最前線に立つのが、スキマバイトサービス「タイミー」です。
企業の「働いてほしい時間」と個人の「働きたいスキマ時間」をマッチングするタイミー。従来の労働市場では見過ごされてきた「時間の隙間」に、新たな価値を見出しました。
しかし、全く新しいこのサービスには、世に広める力強いブランディングが不可欠です。今回、タイミーでブランディングを担うBX部で部長を務める木村真依氏とブランディングチームの北山玲央菜氏に取材を実施。2回に渡って、タイミーのブランド戦略について話を伺いました。
全方位でステークホルダーと向き合う
編集部:タイミーについて教えてください。
木村:タイミーは、事業者側の「働いてほしい時間」と個人の「働きたいスキマ時間」という時間同士をマッチングするプラットフォームを運営しています。
他の人材派遣サービスや求人広告メディアとの違いとして、タイミーは“スポットワーク”であり、有料職業紹介事業者であることが挙げられます。最短1日1時間から雇用契約を事業者さんとワーカーさんで結んでいただく形式で運営しています。
【タイミーの特徴(黄色がワーカー側、青が事業者側)】
編集部:木村さん、北山さんが所属するBX部はどのような部署なのでしょうか。
木村:ブランドエクスペリエンス部(BX部 ※Brand Experience/Business of Experience)という部署名で「ブランド体験の構築向上」や「ビジネスを加速させる」ためのブランド戦略の策定および実行を推進するチームとして存在しています。
「ブランド」は、大きく“コーポレート”と“サービス”の2軸がありますが、両方を担当しているのがBX部です。
一方、マーケティング部は別にあり、主にタイミーのユーザーである事業者さんやワーカーさんの稼働率・稼働回数などを事業数字としてKPIとして持っているチームになります。
編集部:担当する領域と目標が異なるわけですね。
木村:そうですね。BX部もマーケティング部同様、事業者さんやワーカーさんにも向き合っていますが、それ以外にも例えば行政や採用候補者、あと従業員も含めた全方位でステークホルダー(会社を経営をするうえで、直接的または間接的に影響を受ける利害関係者)と向き合っています。
【株式会社タイミー BX部 部長 木村真依 氏】
加えて、「タイミーを好きになってもらう」「タイミーを使ってもらう」ことにプラスして「嫌われない」といった守りの部分も担当している点もマーケティング部との大きな違いです。
編集部:BX部が立ち上がった理由は何かありますか。
木村:ブランドとして定まっていかない、一貫性が無くなるのではないか、と課題意識を持っていたことが理由にあります。
部が立ち上がる前、社内にマーケティングやPR、政策企画(ガバメント)などそれぞれの部署があったのですが、少ないリソースでお互いが会社にとって良かれと思って施策をやっているという、縦割りなところがありました。
具体的に言うと、マーケティングは「学生やパートアルバイト」に対してサービスを提供していこうと方針打ち出しているけど、PRチームは「副業として会社員」に使ってほしい、ガバメントは「セーフティネットとして政府」に訴えていきたいといった具合です。
ステークホルダーが違うのは全然良いと思いますが、ブランドとして核となる「伝えたい提供価値」を決めた上で、動いていく必要があると考えていました。
加えて、当時競合も参入していたタイミングで、他サービスとの差別化を含めてブランド力を高めて行く必要があるという課題感も理由の1つにあります。
手段は「単に広告を打つだけ」ではない
編集部:BX部が重要視していることを教えてください。
木村:BX部で特に大切にしているのが「ミッションの体現」です。タイミーでは“「はたらく」を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる”というミッションを掲げていますが、私達がそこに向かっている中で、生活者の方にちゃんと感じていただく、ちゃんと相手に伝わり、共感してもらうところまでがブランディングの活動だと考えています。
これは単に広告を打つだけではありません。ミッションを実感できるような体験や情報を提供するため、クリエイティブな広告キャンペーンからタイミーのサービス改善まで、あらゆる手段を活用しています。
編集部:なるほど。様々な施策を実施していくことになると思いますが、全て社内で内製されているのですか。
木村:いえ、施策ごとに外部の企業様と一緒に取り組んでいます。
タイミーでは、外部のベンダーや代理店を単なる業務委託先ではなく、事業成功のためのパートナーとして捉えています。あらかじめ決めたことを単に実行してもらうのではなく、実現したいことに対して共に提案を出し合い、課題を共有しながら解決策を形にしていくパートナーシップを重視していますね。
具体的な例を挙げると、ブランドムービーの制作では代理店さんにお願いするのではなく、制作会社と直接話を進め、タイミー側がディレクションを行いながら共同で作り上げました。一方で、このあと話をする上場時の広告キャンペーンでは、大手広告代理店の力を借りています。固定的な外部パートナーを持つのではなく、各プロジェクトの目的や予算に応じて最適なパートナーを選定し、柔軟に協力関係を築いています。
ダンジョン感のある渋谷センター街で「スキマ広告」
編集部:タイミーといえば、渋谷で実施された「スキマ広告」が大きな話題になりましたね。
木村:「スキマ広告」キャンペーンは、私たちの核心的なメッセージを伝えるために企画されました。私たちが強調したかったのは、「働く可能性」と「スキマの可能性」という二つの重要な概念です。
5周年というタイミングで、世の中の方たちに対してタイミーのミッションを伝える良い機会だと思いまして。今までの感謝とこれからもタイミーはこういったスキマの価値を高めながら、ミッションを体現していきますという意思表明をしたいと考えました。
パートナー企業さんと一緒に話しながら、提案を頂きつつブレストを重ねて「スキマ広告」というアイデアに至った経緯があります。
編集部:電車のステッカー広告も「スキマ」を意識したクリエイティブで展開されていましたね。
木村:はい。タイミーはオンラインのサービスではありますが、WEB上だけではなく、もっとリアルの接点を持ちたいと思っていました。その中で、利用者との接触時間を長く持つことが出来る電車内という場所が良いのではないかと考え、実施しています。
【実際に掲出されたステッカー広告 ※一部抜粋】
編集部:渋谷の「スキマ広告」が出された場所は決して目立つ場所ではありませんでした。私が現地で見た印象だと、広告から直接の反響よりはPRありきの展開だったのかなと思っています。
木村:その通り、PRによる広がりを意識しています。
OOH(屋外広告)を出すだけだと、掲出場所である渋谷周辺の利用者にしかリーチできません。だからこそ、X(Twitter)などSNSで発信して頂いたり、メディアに記事として取り上げて頂くことで広がっていくことを狙っていました。OOHをやるときの意味として、それが結構大きいなと思っていて、どうやったら興味を持っていただけるかは常に考えています。
編集部:渋谷という場所を選んだ理由はありますか。
木村:ターゲットとして若年層を意識していたことがあります。
渋谷のスキマ広告と同時に、渋谷近くの大学でもスキマ広告をだしていて、そこに連動させました。
【大学で掲載されたスキマ広告】
北山:あと、渋谷センター街が“ダンジョン感”があるので、広告を探して回る楽しみもあるよねって話もありました。
実はクリエイティブも、ただスキマに出しているっていうだけじゃなくて、そのスキマの場所を意識したコピーになっていたりします。その街に溶け込ませる意味を持ってスキマを選んでいきました。
【「俺流塩らーめん」店舗隣のスキマ広告】
【カラオケ店舗近くに掲載されたスキマ広告】
「なんか好き」といった感情をスコア化してKPIに
編集部:「スキマ広告」含め、5周年タイミングの広告の反響はどうでしたか。
北山:まず、定量的なデータとしてX上でのエンゲージメントを追っていました。
BX部で定義する「エンゲージメント」は、投稿に対するいいね数やリポスト数、あとはUGCの総和で、投稿のインプレッション数は含めていません。独自の評価エンゲージですが、私達は伝えたい想いや伝わった、共感されたアクションだけを社内でベンチマークしたりします。
【株式会社タイミー BX部ブランディングチーム 北山玲央菜 氏】
今回で言うと数千のエンゲージが取れていて、過去の施策も含めてベンチマークしていた数値の1.5倍ほどの成果がありました。
あと、新規の取材打診が増えたり、プレスリリースが転載されるなどして計34メディアで取り上げていただき、大きな成果に繋がりました。
木村:定性的な側面では、マーケターの方や広告業界の方などプロの方が結構発信いただいて一般の方にも広がったりとか、「子供と一緒に探しています」と宝物探し感覚で、探していましたと親御さんの発信もあったりしました。
もう一つ重要な指針として、「心理的ロイヤルティ」があります。サービスに対する愛着や、なんか好きだなといった感情をスコア化してKPIとしています。
サービスの機能的な便益を追求し、サービスの利用回数やリピート率を測る「行動的ロイヤルティ」も確かに重要です。ただアルバイト紹介サービスの分野では、多くの競合があり、その中で「タイミー」というサービスが選ばれるためには、「なんか好きだな」といった「心理的ロイヤルティ」が影響すると考えており、今回の5周年企画でも指針として設けていました。
総じてタイミーの「スキマ広告」キャンペーンは、予想以上の反響を呼びました。多くの方から「自分にもスキマ時間があると気づいた」「スキマ時間の活用はいいアイデアだ」といった肯定的な感想が寄せられましたし、この広告キャンペーンを通じて、ブランドへの「心理的ロイヤルティ」が高まっていることが、定量的な調査でも確認できました。定性的なコメントからも、同様の傾向が見て取れます。
7月、弊社が上場した際に出した広告も様々な反応があったので紹介しますね(第2回に続く)
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