縁結び神社前で"ご縁"を繋ぐ?1日100円からの電柱広告マーケティング(前編)

縁結び神社の前で、意図して「電柱広告」を出した事例がある事をご存じだろうか。

電柱広告というと「道を歩いてよく目にする看板」や「クリニックや近隣施設への道案内看板」など、総じて街に根付いてビジネスを展開する店舗が使っている印象を受ける人も多いだろう。
【街でよく見る電柱。柱を活用した広告枠が存在する】

そんな電柱広告、実はエリアマーケティングでの活用はもちろん、SNSでの話題化やUGC(※User Generated Contentの略。企業側ではなく消費者であるユーザーによって制作・発信されるコンテンツを指す)獲得に有効活用されている。

今回は、東京都中央区に本社を構える株式会社東広で電柱広告の企画営業をしながら、自ら「電柱広告のキムラ」として電柱広告の認知UPを目指した活動を行っている木村隆氏に、事例を中心に電柱広告の魅力について話を聞いた。

1日あたり約100円の圧倒的コスパ

木村氏によると、電柱広告には大きく3つの特徴があるという。

1、柔軟に場所を選べる

電柱広告の特徴1つ目は、柔軟に場所が選べる点だ。商圏内で屋外広告を集中的に展開したいと考えている企業にとって、住宅街に看板を出すにも、土地などの問題で理想通りの場所で掲載できないという難しさがある。

「その点、電柱広告は“広告を出せる場所の候補が多い媒体”という特徴があります。例えば、店舗から半径2㎞以内で集中的に出稿したり、自分の店舗から近い順に出すことができたりと場所の融通が利きやすい点があります。」と木村氏は話す。

駅前や幹線道路沿いではなく、ターゲット層の生活圏に最も近い距離で出せる広告ともいえそうだ。

2、金額が安い

「意外と知られていないのですが、電柱広告はリーズナブルなのです。」と木村氏が話す通り、1日約100円/本(※エリアによって異なる)と広告料の安さが魅力だ。

月換算でも約3,000円とちょっとしたサブスクに契約する感覚だ。特に広告予算に制限がある中小企業にとって大きな魅力といえるだろう。

3、参加型でゲーム性がある

電柱広告には、ファンの方が広告が出された電柱を探しに行ったり、宝探しゲーム的な施策で反響を得ている事例が数多くあるという。

“見つけ出す楽しみがある点”は、繁華街の中心地から住宅街ど真ん中の位置まで場所のレパートリーが広い電柱広告ならではの特徴だ。

では、実際にどういった企業が活用しているのか、実際の事例を見ながら紐解いていく。

事例①:ラジオ局

事例の1つ目がTBSラジオの電柱広告。

TBSラジオ内の新番組にて、電線愛好家として知られる石山蓮華さんがパーソナリティを務めることになり、「電線にちなんで、電柱で何か出来ないか”」と木村氏に相談が入ったことが設置のきっかけだという。
【実際に設置された電柱広告。木村氏のInstagramより引用】

こちらの企画では、石山さんが卒業した大学の前や、小さいころに過ごした街を中心に計5箇所を選定。
広告内にQRコードを設置し、QRコードを読み取ると、その電柱の電線を石山さんが解説してくれる内容になっている。5カ所を全てオリジナル内容にすることで、巡りたいと思っていただけたこともポイントの1つだ。

「電柱広告設置後、ラジオのリスナーが電柱を巡ってSNSに投稿する様子が多数みられました。」と木村氏は話す。
【ファンによる発見報告が数多くみられた】

特に、全ての電柱で異なる解説コンテンツを掲載したことで、制覇したいと思わせる仕掛けが秀逸だ。電柱広告の特徴であるゲーム性を上手く取り込んだ事例といえる。

事例②:結婚相談所

事例の2つ目が株式会社ナウいの電柱広告。

エリア密着で商圏が決まっていることが多い結婚相談所だが、こちらの事例で興味深かったのは「縁結び」に関連した場所で電柱広告を実施した点が挙げられる。

例えば、縁結びの神社近く、飲み屋が多く立ち並ぶ渋谷横丁、恵比寿横丁などの近くなど“ご縁”や“出会い”に関連したマインドを持つ方が多く訪れる場所だ。

さらに興味深いのは、“縁切り神社”近くの電柱で広告を出した点にある。

「こちらの事例では、縁結びの神社の他に、縁切り神社の前の電柱にも広告を設置しています。縁を求めて動かれている方が、実際にどのような行動をするかを調査したところ、縁結びの神社に行く前に1回リセットを兼ねて縁切り神社に足を運ぶ方が一定数いらっしゃる事が分かりました。そういった方に電柱広告を通して、良いご縁を提供するメッセージを発信しました。」と木村氏は話す。
【東京都豊島区にある結婚相談所様の電柱広告。木村氏のInstagramより引用】

実際に設置後、縁切り神社近くで電柱を見た方が、その足で結婚相談所を訪れるケースもあるそう。場所の自由度が高い、電柱広告ならではの事例だ。

事例③:レコード会社

事例の3つ目があいみょん「初恋がないている」のリリースに合わせた電柱広告。
【実際に設置された電柱広告。木村氏のInstagramより引用】

こちらの企画は、曲の歌詞にある象徴的なフレーズ「電柱にぶらさがったままの初恋は痺れをきかして睨んでる」にちなんだものとして展開。京都を除く全国46都道府県の電柱に設置された。

特設サイト内にて掲出場所のヒントを公開し、実物を探し出したファンが電柱広告の発見報告を発信した様子が多数みられた事例だ。全国のファンが“電柱広告を探す”シチュエーションを作り出した点がポイントだといえる。

実物を撮影してシェアする動きも多数みられたが、木村氏によると「場所を明示しなかったことで、電柱を見たくても見つけられない方が一定数いらっしゃいました。既に見つけた方が、まだ見つけられていない方に場所のヒントを教え合うコミュニケーションが発生していたことが、この事例の大きな特徴です。」という。
【場所のヒントをまとめた投稿が見られたり、それが拡散される様子も散見された】

こちらの施策では、全国で設置することで誰もが実物を見れるようハードルを下げた点は興味深い。また、場所を伏せることで、ちょっとしたファンイベントのような形で受け止められたこともこの施策のポイントといえる。
【ファンからすると、「自分が住むエリアにしかない電柱」があるという前提があるため、発見報告をしたいと思うモチベーションは高いと推察される】

ここまで、場所の自由度が高い特性を生かした事例や、ちょっとしたファンイベントのような見せ方でSNSで話題化した事例を見てきたが、木村氏によれば電柱広告は“業務改善”や“WEB検索”にも活きてくるという。

後編では、知られざる電柱広告の副次的な効果について紹介していく。