共感を呼ぶ秘訣は“一発撮り”!?保育士転職サービスのSNS運用術


株式会社プロリーチが運営する「保育士Reach」では、転職検討している保育士の方向けに転職支援サービスを提供している。保育園を始めとする施設に転職を希望する保育士を紹介して、転職が実現したときに紹介手数料が発生するビジネスモデルだ。

転職を希望する保育士がプロリーチ公式LINEを友達登録してキャリアアドバイザーとの面談から転職支援がスタートするが、同社の特徴として、LINE友達登録(集客)をWEBサイト上ではなくTikTokやInstagramを中心とするSNSで行っている点が挙げられる。

保育園の求人情報だけでなく、実際に現場で働く保育士が共感できるような“あるあるネタ”や、求人票では見れないリアルな現場の様子を動画を通して発信することで、ユーザー獲得に繋げている。

今回は、株式会社プロリーチでマーケティングを担当する佐藤氏、藤原氏にコンテンツ作りにおける考え方やアカウント運用法など、話を聞いた。

総フォロワー10万超え!SNSを通して保育士にサービスを知ってもらう

プロリーチでは様々なプラットフォームで10近くのアカウントを運用している。2024年4月時点で総フォロワー10万人を超えており、現在も右肩上がりで成長中だ。
【プロリーチで運営するSNSアカウント】

例えば、TikTokで運営している「保育士Reach」は男性が出演する動画がメインとなっており、転職に役立つコンテンツやおすすめの保育園紹介などを発信している。ターゲットは30代、40代のベテランや園長職を経験したような保育士だ。
保育士Reachで投稿されている動画例】

一方、「保育士のアイカタ」は、新卒・第二新卒の保育士であったり、元保育士の目線から保育士さんに共感を届けるコンテンツを発信しており、ターゲットは20代や新卒の保育士となっている。
保育士のアイカタで投稿されている動画例】

発信する内容については「今の環境での働きづらさや転職を考えたタイミングで、第1想起してもらえるようなコンテンツ作りを意識しています」と佐藤氏は話す。

実際に投稿された動画を見ていると、30~60秒程度でストーリー仕立ての内容が多くみられた。動画内では、最後の方にLINE登録の誘導があるが、サービスの周知はそこまで多くない印象だ。

佐藤氏によると「何かしらの出来事やきっかけがあった上で転職を意識する方が多いので、そのきっかけをなるべく忠実なストーリー仕立てにして表現するようにしています。なので、動画上でいきなり“転職相談”とか“キャリア構築”といった言葉は使いません。保育士さんが1人で悩まず、気軽に相談していただけるよう一緒の目線を大切にしています。」

リアルさや人間味を追求するために“一発撮り”

複数のプラットフォームでアカウントを運営するプロリーチだが、以下のように方針を決めて運用している。
【各プラットフォームでのコンテンツ方針。ヒアリング内容より筆者作成】

では、実際にどういった流れで動画作成が行われているのか、TikTokで運営する「保育士のアイカタ」で掲載された動画の企画メモを見せてもらった。

企画1:短所→長所の言い換え術
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内定を勝ち取る
短所→長所
最強言い換え

短所:心配性
長所:子供の体調、心の変化に気づける!

短所:マイペース
長所:落ち着いて物事に取り組める

短所:優柔不断
長所:周りの意見も取り入れて慎重に看護ができる

短所:完璧主義
長所:強い責任感で最後までやり抜く!

短所:飽きっぽい
長所:好奇心旺盛で感性が豊か!
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掲載された実際の動画

企画2:保育園で見るべきポイント
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今日は保育士さんに
園見学で見るべきポイントを紹介する

変顔寄る ドドン(効果音)

・保育士さん「こんにちは〜」
職員さんが笑顔で挨拶してくれるか
職場の雰囲気が良いかなど、職員さん同士の会話も(よく聞こう)

・2つめはICT化がされているか
書類は紙で管理しているか、勤怠管理されているかは
絶対に事前に知っておくべき!

・3つ目はトイレの履き物が揃っているか
子どもの成長に合わせた保育がされているか
よく見極めるべき!

・4つめが壁面制作が季節に合っているか
壁面や制作が多すぎると
保育士さんの負担が多いこともある
保育園選びや園見学行くなら
保育士Reach!
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掲載された実際の動画

「実は企画書などは作成しておらず、基本的にこれくらいのメモで撮影に入っちゃいます。細かな指示を出してしまうと、どうしても“演じて”しまう。リアリティや人間味の部分を意識するために、最低限の情報だけで撮影していきます。」と藤原氏。

驚くべきことに、リアルさや人間味を追求するため、基本は上記の企画メモを元に一発撮りで撮影をするという。
一般に動画を撮影すると言えば、企画書を作って目的をまとめた上で、流れも事細かに指示出しを行うイメージがあったが、プロリーチでは意図的に行っていないらしい。また、出演する演者はプロの役者ではなく、プロリーチ社内のメンバーですべて行っている。

「例えば、SNS運用代行の会社さんとかだと、企画、撮影、動画編集、効果分析と人がそれぞれ分かれているケースが多いみたいですが、弊社の場合だとTikTokやInstagramのアカウント1つに対し、1名の担当者が企画から撮影、社内メンバーのキャスティング、撮影、動画編集、効果分析まで全て行う形にしています。」と佐藤氏は話す。

同じ“保育士”がターゲットという事に変わりはないが、アカウントごとにターゲット層が少しずつ異なっており、その層に合ったコンテンツをアカウント担当者が考え抜いて企画を作成していくという。

動画はパターン化して作成

「今アカウントを運用している担当者は7割ほどが元々保育の現場で働いていた人です。なので、自分の実体験を元に企画を組んだりしています。」と藤原氏。

実体験はもちろん、実際に保育士の面談を担当しているキャリアアドバイザーからフィードバックしてもらったリアルな“現場”をコンテンツに落とし込むことも多いという。

動画は基本的に1日1本は掲載しており、企画から撮影、編集まで様々な動画を並行して作っている。もちろん、全て完全オリジナルのコンテンツではあるが、佐藤氏によると制作する動画は大きく以下の4パターンに分かれているそうだ。

1、リアルなシーンを彷彿とさせる“雑談型”

思わず「あるある」と共感したくなるような日常ネタをコンテンツ化して配信。動画例はこちら

2、「こういった場合、あなたはどうする?」といった“参加型”

実際にあった出来事などを取り上げながら、「あなたならどうする?」とコメントを募集していく。コメント数が多くなる傾向。動画例はこちら

3、転職サポートの考えや想いを伝える“想い型”

どのような想いで、どのような人が転職サポートをしているのかを発信。動画例はこちら

4、没入感のある“ドラマ型”

保育園などを借りて、実際に起きた出来事をショートドラマ化して配信。
1つの型に特化したり、4つの型をバランスよく取り入れたりしながら、コンテンツを制作しているという。

再生数よりLINE登録者数を重要視

では、どのような観点で動画を評価しているのか。佐藤氏によれば、主に見ているのは、動画の再生数ではなく“動画からのLINEの登録者数”だという。

「過去の例だと、再生数が10万回でもLINE登録が4名しかない事もありましたし、1,000回ほどしか再生されていなくても6名登録がきた事もあったりで、必ずしも再生数に登録数は比例しません。どちらかというと再生回数より保育士さんの共感が得られたかどうかを重要視していますね。」

また、実際にLINE登録頂いた方が“どういった悩みを持っていたのか”、“どれくらいの時期で転職を考えられているか”などの情報も1つの指標として見るそうだ。

実際、クリエイティブを作る時に「誰でも何でも相談してね」という広く浅めの訴求だと、LINE登録は多くても、その後具体的な話に繋がりにくいそうだ。逆に「●月(時期)に転職について悩んでいる保育士さん、●●のような動きをした方がいいですよ」といった具体性がある訴求の方が、流入の母数が少なくても具体的な相談に進みやすい傾向にあるようだ。

ライブ配信でコミュニケーションのハードルを下げる

最後に、今後のアカウント運用方針について聞いたところ、主に2つ考えていることがあるという。

「1つ目はクオリティの追求です。ここ最近、縦型ショート動画のプラットフォームはプロの方もそうですし、一般の投稿者も動画のクオリティがかなり上がっている中で、より保育士のリアルさを追求しつつ、共感してもらえるコンテンツを磨き続けることは大切にしていきたいです。とはいいつつも、毎日接点を持つことは疎かにはしないよう、動画投稿のスピード感は落とさないようにしたいと思っています。

もう1つが、TikTokライブとかYouTubeライブなどのライブ配信です。実名のLINEで友達登録って、やっぱりハードルは高いと思っていて。まだ実際に登録してアドバイザーさんと電話をするっていうテンションじゃない方や、ハードルが高いと感じている方も、コメント欄を通じてコミュニケーションをとっていきたいと考えています。」
【YouTube「保育士Reachちゃんねる」のライブ配信の様子。多くの相談やコメントが寄せられる】

佐藤氏によると、保育の業界では3月と4月が最も転職で人が動くタイミングという。園の求人自体は年間で募集があっても、担任などを持つと、転職はどうしても春のタイミングになるらしい。実際、5月に転職が決まっても、動くのは翌年の4月というケースも決して少なくないようだ。

その意味でも、ライブ配信など気軽に参加できる環境を用意しながら、長いスパンで保育士との接点を持ち続けることは重要だと佐藤氏は教えてくれた。

「私も現場で働いていたので感じますが、まだ転職ではなくても、保育士さんが1人で悩まず、気軽に相談できるような環境作りをしていきたいなと思っています」

同社の取り組みは、動画コンテンツを通じて共感を呼ぶことで、保育士との信頼関係を築きつつ、集客に繋げているように感じる。単に情報を発信するだけでなく、受け手の共感を得るための工夫がSNSマーケティングにおいても必要なのかもしれない。

(取材協力:株式会社プロリーチ