エナジードリンク業界のマーケティングから学ぶイメージ戦略


「レッドブル、翼をさずける」でおなじみのエナジードリンク業界大手であるレッドブル。
一度は飲んだことがあるという人も多いだろうレッドブルは売上のおよそ3分の1を広告費に使うと言われているほどマーケティング活動に非常に積極的な企業として知られています。

近年ではレッドブル以外にもモンスターエナジーなどが台頭し、日本でのエナジードリンク市場は拡大を続けています。

そんなエナジードリンク業界のマーケティング戦略は実は明日からでもすぐに真似ができる要素があることをご存じでしょうか?

本日はエナジードリンク業界のマーケティング戦略についての解説と、思わず真似をしたくなる要素についてご紹介いたします。


エナジードリンク大手のレッドブルの大胆な戦略


まず初めにエナジードリンク業界の中でも大手として有名なレッドブル社のマーケティング戦略について解説します。
日本におけるレッドブルのイメージはおそらく「翼をさずける」でおなじみのテレビCMでしょう。



冒頭でも触れた通り、売上のおよそ3分の1もの金額をマーケティング関連費用として使用しておりますが、マーケティング戦略に見られる一貫性としてブランドのアイデンティティを示していることが挙げられます。

パフォーマンスを上げるドリンクというイメージ

レッドブルを飲んだことがあるという方はどんな目的で飲みましたか?
おそらく単なる水分補給のためにランダムな時間帯で飲んでいます、という方は多くないと思います。
レッドブルはまるで「エネルギー」をテーマにしたようなイメージ戦略をとっており、公式ホームページを見ても「冒険」「挑戦」「好成績」など、どれもエネルギーを彷彿とさせるようなワードがちりばめられています。


また、レッドブルはドリンクの販売以外でもスポーツチームへのスポンサーやスポーツチームの保有などを行っています。
そのスポンサーもF1やバイク、アイスクロスなど所謂エクストリームスポーツと呼ばれる、その光景を見ているだけで思わずアドレナリンが分泌されて興奮するようなスリル満点のスポーツが非常に多いです。
その他にもRed Bull Stratosと呼ばれる成層圏からスカイダイビングを行うという人類史上初のチャレンジも行っており、ブランドのイメージを「エネルギー」と呼ぶに相応しい施策を次々と行っているのです。


このように消費者にどのようなタイミングで飲んでほしいのかを明確にし、それを強調するための施策をとり続けた結果、レッドブルはパフォーマンスを上げるためのエナジードリンクであるという認知がなされたのです。

ターゲットである若者との卓越したコミュニケーション戦略

では、実際にレッドブルはどのような方法でその認知を広げていったのでしょうか?

代表的なのはバイラルマーケティングです。
バイラルマーケティングとは口コミやソーシャルメディアなどの共有を通じて、情報が急速に拡散することを利用したマーケティング手法です。「バイラル」は、ウイルスを意味し、人々の間で情報が自然に拡散することを意味しています。

元々WEBが今ほど流行っていなかった時期からレッドブルは学生向けにサンプリングを行うことで商品の認知を上げていました。
今ではWEBを駆使した有名なインフルエンサーとのコラボや、街中で突然行われるサンプリングでブランドイメージは確立されています。

下記の画像のような車を見たことはありますか?
レッドブルのサンプリングの象徴ともいえる存在で、街中に現れる際は大体この車で登場することが多いです。


その中でもSBM(Student Brand Manager)と呼ばれる学生アンバサダーを起用することでレッドブルファン自らに商品を広めてもらうという手法が一時話題になりました。
SBMで選ばれた学生はキャンパス内でのサンプリングをはじめ、様々なイベントの企画提案を行うことができ、難しいとされていた学生コミュニティにあっさりとレッドブルを持ち込むことに成功したのです。

SNSでの発信ももちろん徹底しており、エクストリームスポーツの中でも最もスリルのあるシーンをショート動画として発信したり、時にはユーザーにアンケートを取るような投稿でユーザーの日常にも入り込んでいます。

新社会人向けにXでキャンペーンを開催している様子

ロイヤルカスタマーの重要性

こうしたレッドブルのマーケティング戦略からロイヤルカスタマーの重要性が浮かび上がります。
そもそもサッカーや野球と比べると前述したエクストリームスポーツのファンはどうしても少ない傾向にあります。
それでも彼らのメッセージである「翼をさずける」とターゲットである若者にはエクストリームスポーツが合致すると判断し、その周辺でマーケティングを行うことで数こそ少なけれどもロイヤルカスタマーを獲得することに成功しています。

数が少ないからこそサンプリングの配布はしやすく、口コミも広がりやすいでしょう。

こうしてロイヤルカスタマーを徐々に獲得することでレッドブルは世界的レベルの認知を得られています。


モンスターはライフスタイルの一部と表現


レッドブルと同じくエナジードリンク業界を牽引する存在であるのがモンスター。
彼らもまた街中でのゲリラ的なサンプリング活動やスポーツアスリートとのコラボなどで一気に知名度を拡大しています。

単なるドリンクではないことを強調

これは公式ホームページにも記載されていますが、モンスターは単なるドリンクではなく、
缶に込められたライフスタイルであると表現しており、商品にも「力強く前へ動き続けろ。」や「クールにすばやく前へ動き続けろ。」などのようにそれぞれコンセプトが込められています。


モンスターはレッドブルと同じくスポーツチームへのスポンサーも同じく行っていますが、アーティストたちへのスポンサーも強く行っており、「アスリート、アーティストたちが試合や本番前に摂取することで爆発的なパフォーマンスを得られる」というイメージ定着をさせることに成功しています。


若者を徹底的に狙う

前述したように、スポーツに加えてアーティストたちへのスポンサーを行うことで若者に対するアプローチを強めており、そのアーティストとコラボしたキャンペーンも定期的に開催し、特にSNS上で大いに盛り上がっています。

また、モンスターはレッドブルと比較して1缶当たりの容量が多く、これも若者から支持を集める理由ともいわれています。

調査によると、実際にモンスターを飲んでいる年代で1番多いのは10~20代の若者です。

スポーツ関連のスポンサーをしているところや街中でランダムにサンプリングを行っている部分を見るとレッドブルと似たような戦略を取っているかのように見えますが、ターゲットを若者に絞り徹底的にアプローチしていることがわかります。


共通しているのは顧客理解とメッセージ性


この2社を通して共通しているのはどちらも顧客理解が非常に深い部分と商品のメッセージ性が強いことです。
戦略自体がとても優れているのはもちろんですが、「この商品を手に取った時に顧客にどういう状態になっていてほしいのか」が非常に明確です。
仕事が大量に残っていて残業をしなければいけないときや、学校に提出する課題を徹夜でこなさなければならないとき、とにかくエネルギーが必要な時はレッドブルを飲むというイメージを定着させているのです。

テレビCMでよく見かけるようになったレッドブルも商品発売当時から大々的なマス広告を用いたプロモーションを行っていたわけではありません。

前述したレッドブルの学生に対するアプローチなど、自社商品のメッセージ性を訴えてなおかつそれに当てはまる人をファンにすることでバイラル的に顧客を伸ばしています。

商品の質を上げればすべて解決するわけではない

では、エナジードリンクの事例から今すぐにでも真似ができる要素はどこにあるのでしょうか。
それは「顧客理解」の部分です。
レッドブルのようにテレビCMや全国でのサンプリングなど大規模なプロモーションを展開できなくとも、改めて自社の顧客の理解を進め、顧客が本当に求めているものは何かを突き詰めることはすぐにでもできることです。

今回の事例も、単なるエネルギー補給であれば必ずしもエナジードリンクを飲む必要性はなく、他の有名なドリンクでもいいはずです。
しかし、レッドブルやモンスターと同じくらい街中でサンプリングを行い、SNSでドリンクのイメージ付けを行い、スポーツやアスリートを通して消費者とコミュニケーションを行ってるメーカーをなかなか想像できないと思います。

わざわざエナジードリンクを選ぶのはどういう場面で飲むべきかを消費者が理解しており、頭の中で第一想起されるように設計できているからです。

彼らはこのような顧客理解が十分になされていたからこそ、「必ず受け入れられる」と確証を持ってまずはスモールコミュニティであるエクストリームスポーツや学生たちの中にファンを作りだしました。

これはたとえ食品を取り扱っていようがツールを取り扱っていようが同じことで、日々サービスを利用していただいている顧客から直接話を聞き、客観的に見た商品の強みは必ず理解しなければなりません。

例えば、プロテインは筋力向上のために飲むというイメージが強いと思いますが、実際のアンケートを見ると年代や性別によって「美容のため」「栄養不足を補うため」と筋力向上以外の理由も見えてきます。

ここ最近では女性向けのおしゃれなパッケージのプロテインも出てきていますが、それらも顧客を理解した結果の施策と言えます。

今回の事例から「今よりも商品の質を上げれば自動的に顧客も増え売り上げも上がるはず」という考えは少しリスクがあるように感じます。
それよりも商品を誰に使ってほしいのかを改めて言語化し、数が少なくても商品へ熱烈な思いを持つファンを増やすことのほうが重要でしょう。

今や世界を代表する企業となったレッドブルですが、その成長の秘訣をマーケティングの側面から覗くことですべての企業が真似をできる施策や考え方が見つかります。

顧客とのコミュニケーション設計にお困りの方や、顧客獲得に課題を抱えている方のお役に立てることを願っています。