BtoBとは、企業が他の企業に商品やサービスを提供するビジネスモデルを指します。この対義語としてよく使われるのがBtoCで、こちらは企業が個人(一般消費者)に対して商品やサービスを提供するモデルです。では、BtoBやBtoCに共通して、商品やサービスを販売する上で欠かせない「マーケティング」とは何でしょうか。マーケティングには幅広い意味が含まれますが、一般的には「商品やサービスが売れる仕組みを作ること」として定義されることが多いようです。
マーケティングを説明する際によく用いられる考え方に「4P」があります。この4Pは、マーケティングの仕組みを大きく4つの要素に分けたものです。具体的には、Product(どのような商品・サービスを提供するか)、Price(どのような価格で提供するか)、Promotion(どのような販促活動を行うか)、Place(どのような販路で提供するか)を指します。
近年では、この4PにPerson(人)を加えた「5P」が重要とされるようになってきました。特にBtoCの分野で見かける、「〇〇さんが育てた無農薬野菜!」といった販売手法は、このPersonを取り入れたマーケティングの代表例です。
BtoBマーケティングとは?
マーケティングや販売の業界では、BtoBやBtoCといった用語を耳にする機会が多いのではないでしょうか。これらはそれぞれ、BtoB(Business to Business)が企業間取引、BtoC(Business to Consumer)が企業と一般消費者間の取引を指し、ビジネス用語として広く知られています。
では、BtoBマーケティングとは具体的にどのような行為を指すのでしょうか。BtoBマーケティングとは、企業に向けて商品やサービスを提供する際の「売れる仕組み」を構築するための活動全般を指します。広義には、顧客のニーズを調査し、それに基づいて商品開発や価格設定を行うことも含まれます。ただし、近年ではProduct(商品)やPrice(価格)がすでに決定済みであるケースも多いため、「新規顧客の獲得や見込み顧客との接触機会の創出」を主な目的とすることもあります。
例えば、営業担当者が「今なら割引価格で提供します!」といった形で商品を売り込むことがありますが、これはセールスとされ、マーケティングとは区別されています。著名な経営学者ピーター・ドラッカーは、「マーケティングの目的はセールス活動を不要にすることだ」と述べています。つまり、マーケティングが適切に機能している商品やサービスにおいては、無理なセールス活動は必要ないとされています。
BtoBマーケティングとBtoCマーケティングとの違い
BtoB、BtoCに関わらず商品・サービスの販売を通して利益を創出するために必要不可欠と考えられているマーケティング。BtoBとBtoCでは取引相手が違うビジネスモデルと先ほど紹介しましたが、取引相手が違うことがマーケティングにおいては非常に重要な意味合いを持ちます。まずは、BtoBとBtoCでマーケティングにどのような違いが出てくるのか見ていきましょう。
対象者
BtoBとBtoCの大きな違いは、商品やサービスを提供する対象者(取引相手)にあります。BtoCでは、商品やサービスを購入するのは一般消費者であり、購入の最終決定権もその消費者自身にあるケースがほとんどです。一方、BtoBでは、取引の相手が企業であり、最終的な購入の決定者はその企業の担当者となります。
さらに、BtoBではマーケティング活動におけるターゲットと実際に購入を決定する決裁者が異なる場合もあります。加えて、企業向けに販売した商品やサービスは、個人ではなく社内の複数の人々によって使用されることも多いため、単に一人の消費者に訴求するようなBtoC型のマーケティングでは効果が十分に得られない場合があります。
このように、対象者の違いによってマーケティングで注視すべきポイントが大きく異なるのが、BtoBとBtoCの大きな特徴です。
単価
BtoBは企業を対象に商品やサービスを提供するビジネスモデルのため、販売される商品やサービスの金額は、一般消費者を対象とするBtoCに比べて高額になるケースがほとんどです。これは、BtoBの取引が企業全体の課題解決を目的とすることが多く、その価値が高く評価されるためです。
さらに、BtoBでは販売するロット(取引単位)にも大きな違いがあります。同じ商品やサービスであっても、使用者が企業内の多くの社員に及ぶ場合、一度に販売する量がBtoCに比べて大幅に増加します。結果として、単価だけでなく、一度の取引で動く金額全体がBtoCとは大きく異なるのが特徴です。
このように、取引における単価やロットの違いも、BtoBマーケティングとBtoCマーケティングを区別する重要なポイントの一つと言えます。
購入動機
BtoCでは、一般消費者が自分や家族のために商品やサービスを購入する際、主観的な感情が購入動機に含まれることが少なくありません。たとえば、「あの店員さんの接客が気持ち良いから、この店舗で洋服を買う」といった理由で、特定のお店を贔屓にしている人も多いのではないでしょうか。
一方で、BtoBでは、このような主観的な感情が購入決定に占める割合は比較的少なくなります。BtoBでは企業が抱える課題を解決するための商品やサービスの購入を検討することが多く、純粋にProduct(商品の価値)やPrice(価格)が重視される傾向にあります。
さらに、BtoBでは取引規模が大きく、購入の判断にあたっては企業にとっての実質的な利益が重要視されます。ただし、近年では低価格かつ高品質な商品やサービスが増加した影響もあり、Person(人)の要素を重視する企業も増えてきています。この傾向は、今後のBtoBマーケティングにおいてますます重要になると考えられています。
購入までの期間
BtoCでは、商品やサービスの購入を検討してから実際に購入するまでの期間が短いことがほとんどです。一般消費者は目の前の課題を解決するために商品やサービスを購入する場合が多く、すでに購入の意思が固まっていることが多いからです。
一方、BtoBでは緊急性が高い課題の場合には検討から購入までの期間が短いケースもありますが、一般的にはBtoCに比べて圧倒的に長いのが特徴です。BtoBの取引では、単一の企業からの提案で即決することは稀で、多くの場合、複数の企業から見積もりを取得し、費用対効果を比較検討します。その後、担当者が購入メリットを社内で報告し、決裁者からの承認を得るといったプロセスを経る必要があります。
このように、BtoBでは即断即決が難しいため、長期的な視点を持ったマーケティング戦略が求められます。
BtoBマーケティングの流れ
BtoBマーケティングは一体どのような流れで行われているのでしょうか。大きく7つの項目に分けて説明していきます。
1.ニーズ調査
まずは取引先企業が抱える課題を明確に把握することが必要です。その上で、課題解決に適した商品やサービスのニーズを調査し、自社が提供できる価値について理解を深めます。ニーズ調査には、既存顧客へのアンケートや外部機関による市場調査などが含まれます。このプロセスが正確でないと、提案内容やターゲット選定がズレてしまい、その後のマーケティング活動全体に影響を及ぼします。したがって、この段階はBtoBマーケティングの中で特に重要な工程と言えます。
2.商品開発
調査を通じて得られたニーズに応える商品やサービスを開発します。他社がすでに提供している商品・サービスが存在する場合も多いため、自社ならではの強みや付加価値を創出することが求められます。この付加価値がターゲットのニーズに合致していない場合、差別化につながりません。そのため、ニーズを的確に把握し、それを満たす商品開発が鍵となります。
3.リードジェネレーション(見込み顧客の獲得)
どれほど価値ある商品やサービスを開発しても、顧客にアピールできなければ販売にはつながりません。見込み顧客(リード)の獲得はBtoBマーケティングにおける次のステップです。リード獲得の方法には、展示会やセミナー、オンライン広告、テレアポ、コンテンツマーケティングなど、多種多様な手法が利用されます。
前述の通り、BtoBは最終的な意思決定までは時間がかかることがほとんどです。課題が顕在化していない潜在顧客つまり将来的な見込み客を獲得し、最終購入まで情報提供や関係性構築を一定期間必要になります。このリードジェネレーションと次に記載のリードナーチャリングの比重が大きいというのがBtoBマーケティングの特徴です。
4.リードナーチャリング(見込み顧客の育成)
獲得した見込み顧客と接触を重ね、具体的な商品の提案が可能な関係を構築することをリードナーチャリング(見込み顧客の育成)と呼びます。BtoBマーケティングでは検討から購入までの期間が長くなる傾向にあるため、この顧客の育成が重要と考えられています。
定期的なメールマガジン・セミナーによる情報提供や直接見込み顧客と接触することで、見込み顧客のより深いニーズを調査・把握し、直面している課題に沿った解決策を提案していきます。
5.商談
リードナーチャリングによって顕在化した課題を解決できる提案内容が固まったら、より確度の高い見込み顧客から実際に商品・サービスの提案を行っていきます。この確度の高い見込み顧客を選定する行為をリードオリフィケーションと呼びます。
6.顧客獲得
商談内容に基づき、見積書を作成・提出します。高額な案件では複数の企業が見積もりを提出する「相見積もり」が行われることが多く、顧客のニーズに合った提案ができなければ競合他社に負けてしまうこともあります。顧客が見積もり内容に納得し発注を決定することで、初めて新規顧客を獲得することができます。
7.顧客満足度向上
BtoBマーケティングにおいては新規顧客獲得がゴールとはなりません。獲得した顧客と定期的に接触し、ニーズとのズレや商品・サービスに不具合がないかなどのアフターフォローを行うことで、定期的な受注を目指します。また、既存顧客から聞き出した商品・サービスの不満や更なるニーズなどを踏まえて、より良い商品開発を行うというPDCAサイクルを回していくこともBtoBマーケティングにおいては重要視されています。
BtoBマーケティングの手法
前述のプロセスを踏まえて実際にマーケティングで使われる集客の手法について具体的に解説していきます。
オフライン広告(交通広告、業界紙、DMなど)
SmartHR、新宿駅西口をはじめとする各所で交通広告を実施
オフライン広告は、最も歴史のある集客手法の一つであり、既存の流通網や公共交通機関を活用して、不特定多数の人々に幅広くアプローチできる点が特徴です。近年では、ビッグデータを活用した高度なターゲティングが可能となり、見込み顧客の属性を絞り込んで効果的にリーチすることが実現しています。
特に、業界紙やダイレクトメール(DM)は、BtoBマーケティングでよく活用される集客手法として知られています。これらの媒体は、特定の業界や企業をターゲットにしており、BtoBに特化したマーケティング戦略に適しています。例えば、業界紙への広告掲載は、特定の業界関係者に直接リーチできるため、ターゲティングが明確で無駄の少ない広告が可能です。また、DMは、特定の企業や担当者に直接情報を届ける手段として効果的です。
さらに、オフィス内広告やターゲット紙など、BtoBマーケティングにおいて効果的なオフライン広告の手法は多岐にわたります。オフィス内広告は、社員が日常的に利用するスペースに広告を掲出することで、高い視認性を確保し、特定のメッセージを直接届けることができます。ターゲット紙は、特定の職種や部門に特化した内容を掲載しており、該当分野の専門家や実務担当者に効果的にアプローチできます。
これらのオフライン広告手法を組み合わせることで、BtoBマーケティングにおいて効果的な集客戦略を構築することが可能です。詳細な事例や効果的な広告媒体については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
参考
展示会、イベント
物流業界で日本最大規模を誇る総合展示会「ジャパントラックショー」
展示会、イベントは一度に多くの人へリーチすることが可能な集客方法です。同ジャンルの企業が一堂に会する大規模なイベントでは同業他社の動向を伺える機会ともなるため、集客と合わせて情報収集やニーズの調査が行えます。
来場者には商品・サービスに興味のある企業が多いため、場合によってはリードオリフィケーション(確度の高い顧客選定)までを同時に行える効率の良い集客方法と言えます。
また、業界特化型の展示会やセミナーの開催時期に合わせた広告展開も有効です。
展示会場の最寄り駅やその会場にアクセスする電車路線をジャックし、広告を大量に露出させることで、来場する業界関係者への認知度を一気に高めることが可能です。、ターゲット企業への直接訴求や、展示会ブースへの集客促進につながります。
セミナー、ウェビナー(Webセミナー)
セミナーやウェビナーは、自社の商品やサービスをじっくりと紹介できる貴重な集客手法の一つです。参加者は基本的に興味を持つ企業に限定されるため、課題が顕在化し始めたターゲットに効率よくアプローチできる点が特徴です。
ただし、この方法には課題もあります。商品やサービスを詳細に紹介するためには一定の時間が必要であり、開催に向けた準備にも多くの時間と労力が求められる点が難点と言えます。
また、自社単独でのセミナーを実施する場合には、WEB広告、オフライン広告、既存客告知、セミナーサイトへの掲載など、セミナー自体への集客方法を考える必要があります。2021年 Peatix Japan株式会社によるイベント調査レポートによるとオンラインイベント開催の主催者が課題として感じているのは「集客・視聴者集め」であり65.6%でした。
Web広告(ディスプレイ広告、SNS広告、リスティング広告など)
Web広告とはインターネットを利用した広告手法全般を指します。広告枠を購入して広告出稿を行うディスプレイ広告や、SNSを利用したSNS広告、検索エンジンの検索結果に広告表示を行うリスティング広告などが多く利用されています。
比較的安価から少ない準備期間で始められる点がメリットで、インターネットを利用して必要な商品・サービスを探すことが増えてきたため、集客の方法としても主流になりつつあります。
参考
テレアポ
テレアポは古くからBtoBマーケティングでは主流の集客方法です。電話と簡単なトークスクリプト、荷電リストのみですぐに始められるため、直ちに多くの企業へリーチしたい場合には有効な手法と考えられます。
近年では企業のセキュリティ意識や在宅勤務の増加、電話受付の外部委託が進み、営業の電話は取り次がないといった企業も増えてきており、難易度は上がってきています。
また、リストの精度がテレアポの成否を決める重要な要素です。
株式会社ハンモックの調査によると営業リストを作成している企業の88%が営業リストに関して課題を感じています。
コンテンツマーケティング、SEO集客
コンテンツマーケティングとは、企業のブログやSNS、YouTubeなどのメディアを通して消費者に有益な情報(コンテンツ)を配信することで集客を行う手法のことを指します。基本的にはWEB上で集客を行うため、SEO対策とセットで考えられ、SEO集客などと呼ばれることもあります。
インターネット上の有益な情報には多くのユーザーがアクセスするため、質の高いコンテンツを多く配信することで、長い期間継続して集客することが可能な点が魅力の1つです。
まとめ
BtoBマーケティングとは、企業間取引におけるニーズの開拓から商品開発、集客を含む販促活動、受注、さらにアフターフォローに至る一連の流れを指します。一般消費者を対象とするBtoCマーケティングとは異なり、BtoBマーケティングには以下の4つの大きな特徴があります。
BtoBマーケティングの一般的なプロセスは、ニーズ調査から顧客満足度の向上までの7つに分類されます。特に、顧客満足度の向上を通じて継続的に商品開発を改善するPDCAサイクルを回すことが、BtoBマーケティングにおいて重要なポイントです。
集客手法についても、BtoBマーケティングはオフライン・オンライン問わず多様な方法を活用しています。従来から利用されている交通広告や業界紙、展示会やセミナーといったオフライン広告に加え、近年ではWeb広告、ウェビナー、コンテンツマーケティングなどのオンライン広告を活用する企業が増加しています。
商品やサービスの利益拡大において重要な役割を果たすBtoBマーケティング。その特徴やプロセス、代表的な集客手法を改めて紹介しました。これを基に、企業間取引における効果的なマーケティング戦略を検討する際の参考にしてください。