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反応こそ健全な証拠 近畿大学が切り開く大学広告の新境地
挑戦的な広告を通じて、教育現場の「当たり前」にとらわれない広報活動で話題になることが多い近畿大学。2024年度の一般入試志願者数で11年連続1位を達成するなど、その勢いは衰えを知りません。
日本の大学界において固定化された“偏差値の序列”の中で近畿大学はどのようにしてブランドイメージを確立し、受験生の価値観を刷新してきたのか。
アドクロ編集部では近畿大学広報室長の稲葉美香氏に取材を実施。2回に渡って、ユニークな広告がどのようにして生まれるのか、アイデアの生み出し方、話題化の裏側に迫ります。2回目の今回は、実際に掲載した事例を見ながら、近畿大学の広告の秘密を紐解いていきます。
正月広告は大学の所信表明
編集部:年間を通して複数回広告を出されていますが、ターゲットはやはり受験生(=高校生)ですか。
稲葉:広告の目的によって内容を分けています。
【近畿大学 経営戦略本部 広報室室長 稲葉美香 氏】
例えば、毎年1月3日に出している新聞広告は、「近大としての所信表明」の位置づけとしています。近大は「こうします」とか「こうしたい」といった強いメッセージを発信しています。
こちらについては受験生だけにターゲットを絞っているわけではありません。あくまで「近大としての所信表明」なので、受験シーズンに出す広告とは少しスタンスが違います。
【2021年1月に掲載された新聞広告】
一方で、オープンキャンパスの広告などは、学生にキャンパスを見て、体感してもらうためにも、とにかく来てもらわないといけないわけです。そうなると「行ってみよう」と思ってもらうことが重要な指標になります。
なのでデザインも楽しそうな雰囲気を重要視しています。
あえて“ランク外”をキャッチコピーに
編集部:最近だと「上品な大学、ランク外。」というキャッチコピーの新聞広告が話題になっていましたね。
【2023年1月に掲載された新聞広告】
稲葉:はい、SNSでも話題にして頂きましたし、第43回新聞広告大賞も受賞しました。
この広告が生まれた経緯ですが、私の上司が各地で講演をしている中で、近畿大学が「1位」になっているランキングよりも、圏外のランキングを話題にしたときの反応がとても良いと言う事実がありました。
「上品な大学、ランク外」の広告は、まさに逆転の発想で、あえてランク外のネタをキャッチに出すことで「何言ってるの?」という引っ掛かりを作ることを意図しました。そこからコピーを読んでもらい、「近大にはチャレンジ精神があって、コミュニケーション能力が高い学生がたくさんいます」という最終的に伝えたい事実に着地させる手法です。
たとえ事実ではあっても、ストレートに伝えたところで現実味がなく、壮大すぎるようにも聞こえてしまうので。
編集部:なるほど、確かに「上品な大学、ランク外。」ってどういうこと?ってなりますよね。
稲葉:実在の人物の写真の上にこのコピーを掲げるわけにはいかなかったので、「じゃあ作ろうか」となり、“生成AIを使ったところ最初はマグロと人間の半魚人が出来上がったのですが…さすがにね…となりまして。
そこで、生成AIを使いこなす情報学部の学生さんに依頼し、彼が200枚の実在する近大生の写真をAIに学ばせた上で生成した「いそうでいない近大生」があまりにクオリティが高かったため、6人も起用しました(笑)
反応はあってこそ健全、無反応は悪
編集部:「大阪のユニバといえば、近大やろ」という広告は、ネット上で大きな話題になりました。
稲葉:あれは元々、月刊「宣伝会議」が主催する公募広告賞「宣伝会議賞」に応募されたキャッチコピーで、近畿大学賞を取った作品です。
せっかく考えていただいたので、このコピーありきで広告代理店にビジュアルアイデアの提案を依頼したところ、“学生証を年間パスに見立てる”というアイデアが出て、採用しました。
【2019年1月に電車内で展開された広告】
ここに出ている人たちは全員近大の関係者で、キャンパスを歩いている中で普通に声を掛けた学生さんもいます。マンモス復活プロジェクトの研究からマンモスも登場させました。すべて近大を表したコンテンツで構成されています。
編集部:よく見ると、色々映り込んでいますね...(笑)どういった声がありましたか。
稲葉:「近大らしい」とお褒めの言葉も多く頂きましたが、「大学は遊ぶ場所じゃない」といった声もあったりと、本当に大きな反響を頂きました。また、ある番組でコメンテーターの方が「ユニバの広告かと思ったら近大だった」と紹介してくださるなど、反響が加速していきました。
編集部:他にも反響が大きかった事例はありますか。
稲葉:「早慶近」の事例も多くの方に感想を頂いた事例でした。
【2017年1月に掲載された新聞広告】
「早慶近」とは適当に言ってるわけじゃなくて、実は世界の大学ランキングで私立総合大学の上位を抽出するとこういう括りもあることを提示してみたのですが、「何ふざけたこと言ってるんだ」という声から、「知らなかったから驚いた」というプラスの声もあり、賛否両論で議論が生まれた広告でした。
あとは、大阪名物「551HORAIの豚まん」のCMを意識して作成したオープンキャンパスの広告も反響がよくて、3年ほど継続しています。
【2024年3月に電車内で展開された広告】
旅行や出張帰りの大阪土産としても有名な551ですが、関西圏では551のCMって定番なんです。豚まんが「あるとき」「ないとき」で反応が違うのが印象的なCMです。
はじめた当時、新型コロナの影響でオープンキャンパスがリアル開催できるかオンライン開催になるか微妙な時期で、オープンキャンパスが「あるとき(リアル開催)」「ないとき(オンライン開催)」の視点でクリエイティブをそれぞれ変えて展開しました。
編集部:関西圏の方ならお馴染みのCMが元ネタなのですね。
稲葉:そうですね。オープンキャンパスでは広告だけでなく、来場者にお渡ししている紙袋も元のデザインを意識して作成しています。もちろん、蓬莱さんには許可をいただいていますよ。
【551(左)と近大(右)の紙袋比較】
蓬莱さんからは、オープンキャンパス時にご厚意で配布用のアイスを頂いたりもしていますが、「551にちなんで5,510本」配布にしています。やるなら徹底的に話題化にこだわりたいですね。
編集部:オープンキャンパスの広告で他に話題化した事例はありますか。
稲葉:新型コロナの影響で人数制限していたときは「行けたら行くわ」というコピーで広告を出したりもしました。
【2021年7月に電車内で展開された広告】
「行けたら行くわ」って関西弁では「行かない」って意味なんですけど、そのセリフの意味もあって、じわじわと長く話題にしていただきました。
編集部:ユニークな広告展開でポジティブな反響がある一方、少しネガティブなお声もあるように見えます。
稲葉:はい、様々な声を頂いております。
ただ総じて、反応を頂けることは健全だと考えています。とにかく「無反応は悪」としているので、良い反応があれば必ず悪いものがあるっていうのは、広報チーム内でも共有認識として持っていますし、表裏一体であると思っています。
「楽しそうだね」で終わったら、そこでもう終わり。やはり反対意見があることで、議論が始まっていくわけであって、それがSNSでの広がりに繋がっていくんですよね。もちろん炎上しようとは全く思っていなくて、話題になれば何やってもいいって発想はありませんが、とにかく感想を呟いて頂きたいと考えています。
学生にチャレンジングな姿を見せる
稲葉:来年には創立100周年を迎えますし、大阪・関西万博の年でもあります。それに向けた広報展開を考えていかねばというところです。
100周年に合わせて医学部と病院が堺市への移転を予定しています。この大プロジェクトをフックにいかに話題化できるかを今考えています。
大学がチャレンジングなことをいろいろとやっていく姿勢を見せることで、学生たちに自分ごととして捉えてもらいつつ、「自分も挑戦してみよう」と思ってもらえれば嬉しい限りです。広報活動で学生たちの背中を押すことができればいいなと思っています。
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