スマホやSNSの普及が、企業のマーケティング手法の急速なデジタルシフトを加速させました。一方で、駅や街頭で目を惹く屋外媒体が廃れるどころか、むしろ活用を検討する企業が増加しているのをご存じでしょうか。電通が発表した「2024年日本の広告費」によれば、「屋外媒体」が属するプロモーションメディア広告費は前年比101.0%の1兆6,850億円となり、その中でも「交通広告（駅や電車内での広告）」は前年比108.5%と利用が拡大している。
そんな交通広告を語る上で見逃せないのが、創業90年以上の老舗・春光社（しゅんこうしゃ）です。長年培ってきたノウハウをもとに、交通広告を中心に企画から制作・運用まで一気通貫で行う体制が強みの同社。さらに注目したいのは、同社が展開する“交通広告に接触したと推定される人”にデジタル広告を届ける広告手法「BRACE（ブレイス）」との連携です。リアルとWeb空間を結びつけることで、交通広告の効果測定やターゲティングが格段に進化しています。
本記事では、株式会社春光社の吉原氏、本間氏にインタビューを実施。交通広告の動向や、BRACEを活用した“交通×Web”の新しいマーケティング手法について伺いました。
創業から90年以上、春光社が見てきた交通広告ビジネス
「春光社」について教えてください
吉原：弊社は創業から90年以上の歴史を持つ交通広告の企業です。電車や駅などの交通広告を中心に企画・販売を行っていますが、単なる媒体の買付にとどまらず、長年蓄積してきた知見を活かし、クライアント様と共に企画やクリエイティブ制作にも積極的に取り組んでいます。
社内には各分野の専門チームを擁しており、企画提案から広告枠の買付、そして広告実施まで一貫したサポートを提供しています。
現場で感じる、昨今の交通広告のトレンドはありますか
吉原：最近は規模の大きい媒体、例えば「渋谷スクランブル交差点ジャック」や「渋谷駅構内の大型サイネージ」「新宿駅の大型ボード」といった、主要駅で“とにかく大きくて目立つ媒体”を指名で問い合わせいただくシーンが増えています。「話題化を狙う」という意味でも、SNS普及の影響が大きいのかも知れません。
直近だと「ピールオフ」の問い合わせが増えている印象です。ポスターなどの広告に小袋サンプルなど「配布物」を貼り付けて、ペリっと剥がして配布する手法を「ピールオフ」というのですが、これをやりたいと問い合わせを頂くケースが増えました。
「ピールオフ」という用語は業界用語な気もしますが、コロナ明け以降は新宿駅地下や渋谷駅の広告枠などで頻繁に見ますし、他社が実施しているのを見て興味を持っていただいたのかなと思います。
交通広告は効果計測が難しく、手が出にくい印象があります
吉原：確かにそうかもしれませんね。例えば、ある商品を「1,000個買って欲しい」と目標数値が具体的であれば、Web広告に注力した方がいいと思います。交通広告の場合、どれぐらいの人が広告を見て、Webページに来てくれて、最終的に購入したか…というのは正確に測ることが難しく、成果を数字化するのは苦手なのが正直なところです。
【株式会社春光社 営業本部 吉原マリア氏】
一方でWeb広告はユーザーの意図に反した場面で割り込んでくると、逆にブランドイメージが低下するというリスクもありますが、交通広告を見て嫌悪感を抱く方は少なく、長期的なブランドイメージを大切にされている方に選ばれている印象です。
課題として、交通広告は見た瞬間に即行動に繋がるものではありません。駅で広告を認識して興味を持っても、実際にそのサービスに申し込むのは家に帰ってからだったりします。また、Web広告のようにコンバージョンを正確に測定するのは難しく、そうした面で交通広告を敬遠される方もいらっしゃいます。そのような課題を解決できるサービスとして、BRACEを開発しました。
課題だった効果計測に一石を投じる「BRACE（ブレイス）」
「BRACE」はそもそもどういった媒体ですか
本間：「BRACE（ブレイス）」はスマホの位置情報やビーコン情報を活用して、特定のエリアや駅を利用した人へWeb広告を出せる媒体です。特定のエリア、屋外広告や交通広告に接触している人に対してターゲティングを行い、その人のスマホや端末上で広告を出すことができます。
場所以外にも、性別や属性データでセグメントすることが可能で、例えば「渋谷駅を利用した、従業員30名以下の法務担当者」「東京駅八重洲口を利用した年収2,000万円以上の方」など要素の掛け合わせで、該当者のスマホ上のWebサイトやApp上に広告を配信します。
【セグメント可能な条件例】
料金は「7日間掲載」といった期間保証ではなく、Web上で広告が表示された回数やクリック数による成果報酬になるため「20万円」など上限設定が可能で、予算をコントロールしやすいのも特徴になります。
「BRACE」を活用した事例を教えてください
本間：一例として、交通広告と掛け合わせて展開したPCメーカー様の事例を紹介します。この施策は中小企業やスタートアップ企業など、「これからパソコンが必要な企業」を対象にした認知施策でした。
認知を獲得したいターゲットは、PC導入を決裁する立場の方で、具体的には人事や総務などバックオフィス部門の担当者、管理職、会社の代表者などを想定していました。実施にあたっては複数の駅が候補として挙がっていましたが、最終的に秋葉原駅での集中貼り（階段や壁面に沿ってポスターを連続して貼る広告手法）で交通広告を展開。同時にBRACEでは主に2つのセグメントに分けて実施しました。
1つは、ユーザーの役職や業種などの情報を活用し、「秋葉原駅で交通広告に接触した人」の中でも「PC購入に関与する職種」に絞って、Web上で広告配信しました。屋外広告とWebで繰り返し広告に接触させることでターゲット層の認知度を高めていきました。もう1つ、分析の観点でちょっとユニークな使い方をしたんです。
「ユニークな使い方」と言いいますと
本間：先ほどお話しした通り、この施策では、実施にあたって複数の駅が候補として挙がっていました。今回は秋葉原で実施しましたが、次回以降さらに反響が見込めそうな駅を選定するため、「PC購入に関与する職種」の方々がどの駅を多く利用しているのかを判断するためのデータ収集をBRACEで行ったんです。
【株式会社春光社 営業本部 本間翼氏】
BRACEでは「秋葉原駅を利用した後に、新宿駅も利用した方」に広告を表示する、といった掛け合わせができます。それを活用し「秋葉原駅の交通広告に接触していて、かつ〇〇駅を利用している人」と配信先を設定。この「〇〇駅」部分を「浜松町」「品川」…と複数駅を設定して配信しました。
以下のようなイメージで広告を配信しました。
- 「秋葉原駅で広告に接触」「PC購入に関与する職種」「品川駅を使った」
- 「秋葉原駅で広告に接触」「PC購入に関与する職種」「浜松町駅を使った」
- 「秋葉原駅で広告に接触」「PC購入に関与する職種」「新宿駅を使った」
施策からどういったことが言えるのでしょうか
本間：各駅ごとにBRACEで配信した広告の“表示回数”に違いが出てきます。「浜松駅」は100回表示、「品川駅」は200回表示…といった具合に、複数駅で展開することで結果が凸凹します。裏を返せば「表示回数が多い場所」は「広告のターゲットになる方が多い駅」と想定することができます。実際、特定の駅の表示回数が多い結果となりました。
こういった形でBRACEと交通広告を掛け合わせることで、広告に接触したユーザー層を可視化し、次の一手に繋げていただける施策にしていただけます。
本間：また、これは余談にはなりますが、BRACEの活用シーンは別に自社広告を実施するときに限らなくてもいいんです。例えば、競合が交通広告を出していたら、「その交通広告が展開されたエリアを利用した方」でセグメントを行って、Web広告を配信するって方法も考えられます。ライバル企業の広告展開に便乗するマーケティング戦略も選択肢として持つことができます。
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交通広告とWeb広告、“どっちがいい”じゃなくて“どっちもいい”
交通広告とWeb広告、“どっちがいい”じゃなくて“どっちもいい”
アドクロ編集部
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