湖池屋が親しまれるスナック菓子から“老舗料亭”への転身を選んだ理由
出典：湖池屋公式熾烈な価格競争で利益率1%まで落ち込み、赤字経営が続いていた湖池屋。2016年に就任した佐藤章社長は、安売り競争の土俵から降りることを決断します。目指したのは、ライバルが手薄な「少し贅沢でセンスの良い」付価価値型のスナックで、顧客が本当に食べたいと思うものを作ることでした。
戦略の核は、新しいものに変わるのではなく「原点回帰」でした。佐藤社長は創業者の音声を聞き込む中で、湖池屋だけが創業時から貫いてきた「日本産じゃがいも100%」へのこだわりこそ、再生の骨子だと再発見します。個別の商品ではなく「湖池屋」という企業の価値を高める戦略を採り、伝統と本物感を伝える新たなロゴを制定しました（出典：湖池屋･佐藤章社長に聞く、ポテチ老舗企業の独自戦略とは）
出典：湖池屋公式この哲学を体現したのが「KOIKEYA PRIDE POTATO」です。「プライド」と「フライド」をかけた遊び心ある商品名は、大真面目なだけでは消費者に響かないという計算から生まれました。
スナックの常識を覆す白いパッケージは、あえて情報を削ぎ落として品質への自信と新しさを表現。荘厳な歌で「国産じゃがいも100%」とだけ訴えるCMも大きな話題を呼びました（出典：“伝えるべき魅力”に集中したことで話題化に成功 ―新生・湖池屋のリブランディング戦略―）
結果、商品は菓子業界のヒット基準(年間20億円)を大きく上回る約40億円を初年度に販売し、会社の業績はV字回復を遂げます。しかし最大の成果は、社内に「自分たちの仕事へのプライド」が生まれたことかもしれません。この成功体験が、全社を活気づける大きな原動力となったのです。
小さな会社だからこそ勝てる。中小企業の逆転リブランディング実践法
「湖池屋のような大企業だからできたことだ」と感じたかもしれません。しかし、リブランディングの本質は、リソースの限られる中小企業こそ実践すべき逆転戦略です。ここでは、自社の価値を再定義し、新たな市場を創造した2社の事例と、今日から実践できる具体的な方法を紹介します。
中小企業のリブランディング事例①：近畿編針 “編み針”を「自分と向き合う時間」に変える
出典：近畿編針公式
創業100年の編み針メーカー近畿編針は、高品質ながら自社ブランドのイメージが古く、海外展開に苦戦していました。
そこで、自社のオーセンティシティである「100年の竹加工技術」を基に、「編み針(モノ)」ではなく「編み物をする豊かな時間(コト)」を売ることへと価値を再定義。国内の取引先は維持しつつ、海外向け新ブランド「Seeknit」を立ち上げ、停滞していた売上を好転させることに成功しました（出典：中小企業白書2022）
中小企業のリブランディング事例②：アックスヤマザキ “ミシン”を「親子の絆」に変えて市場創造
出典：アックスヤマザキ公式
衰退するミシン業界で存亡の危機にあったアックスヤマザキ。彼らは既存ユーザーの獲得を諦め、「子供の最初のミシン体験がネガティブである」という業界の本質的な課題を発見。
糸を使わず毛糸で安全に縫える子供用「毛糸ミシンHug」を開発し、全く新しい市場を創造しました。これは未来の顧客を育てるリブランディング戦略であり、同社を倒産の危機から救う大ヒット商品となりました（出典：【アックスヤマザキ】ミシン業界の常識を覆す！）
リブランディングとはブランドを「変える」のではなく「再発見」する旅である
本記事で見てきたように、真のリブランディングとは流行のデザインに着替えることではありません。湖池屋、近畿編針、アックスヤマザキの成功は、自社だけの「本物性（オーセンティシティ）」にこそ、価格競争を終わらせる力があることを証明しました。
あなたの会社の歴史や技術、そして創業者の想いの中に眠る価値を、今こそ再発見してください。それこそが、顧客から熱狂的に選ばれるブランドへの、最も確かな第一歩となるはずです。
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山本達巳 つきみ株式会社
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