スマートフォンの普及と共に急成長を遂げる「デジタル音声メディア」。ラジオとは異なる特性を持つこの新しいメディアが、広告業界で存在感を増しています。ポッドキャストやSpotifyなどのプラットフォームを通じて、より個人化された体験を提供し、驚くべき効果を発揮する音声広告。今回、音声広告のエキスパートである株式会社オトナルの八木太亮氏に音声メディアの特徴や強み、そして広告としての可能性について聞きました。
市場で存在感が増す「デジタル音声メディア」
編集部:今回のテーマである音声メディアについて、「ラジオ」と「デジタル音声メディア」ではどういった違いがあるのでしょうか。
八木:「テレビ」と「YouTube」のような区分けがわかりやすいかもしれません。「聴取の形態」が異なります。
電波で放送されるラジオは主に受動的な体験で、車内や作業中に流しっぱなしにすることが多く、環境音のように流れています。一方、デジタル音声メディアは能動的な体験です。視聴者は自分で選択して、好みの番組を再生します。
マス的なラジオに対し、デジタル音声メディアは視聴者のデータを収集・分析できることから、パーソナライズされた広告を届けることができます。
編集部:デジタル音声メディアって具体的には何がありますか。
八木:代表的なものだと音楽ストリーミングサービスの「Spotify」や、インターネットラジオサービスの「radiko」が有名です。あと、ここ数年で注目を集めている新しい形態の一つに「ポッドキャスト」があります。
ポッドキャストは、誰でも簡単に制作・配信できるインターネットラジオの一種です。近年、このポッドキャストの視聴者数が増加傾向にあり、新たなメディアとして成長しています。
この傾向は日本市場よりも海外市場でより顕著で、アメリカではデジタル音声広告の市場が継続的に右肩上がりの成長を続けています。
視聴者の87.1%が“ながら”聴き
編集部:広告手段として見たときに「デジタル音声メディア」の強みって何ですか。
八木:デジタル音声メディアでいうと、最大の特徴は、音声でありながらターゲティングや特定層への広告配信可能な点です。登録者情報や、特定の番組の視聴者に配信を絞り込むことで「20代女性だけ」「英語学習中の方」といったセグメント配信ができます。あとは「オンデマンド方式」であることも大きいですね。
編集部:オンデマンド方式…ですか?
八木:簡単に言うと、視聴者は自分の好きなタイミングで、“自身の意志で再生ボタンを押して聴いている”ことです。英語を勉強している人が、リスニングのために英語番組を聞くようなイメージですね。
編集部:なるほど。視聴者は“聴きたいから聴く”とアクションを取っているわけですね。
八木:あと面白いのが、視聴者は何かを“しながら”聞いていることが圧倒的に多い点です。
国内調査ではポッドキャスト利用者の87.1%が、そしてイギリスのBBCが行った調査では94%が「何かをしながら音声コンテンツを聞いている」と回答しました。生活時間において何らかの別の行動と同時に接触されるメディアであり、これは音声メディアの真骨頂といえます。ランニングし“ながら”、料理をし“ながら”など、別行動に意識がある状態を狙える点は音声広告ならではです。
編集部:動画と違って視覚情報がない事は一見不利なようにも思えます。
八木:「動画の劣化版」と思われることもあるのですが、実は動画よりも生理学的に音だけの方が伝わるって研究もあるんです。
こちらのグラフでは、キング牧師のプレゼンを「映像+音声」と「音声だけ」で聞いた時の脳波の違いを表しています。
ピンク色は音声だけを聞いた人です。お分かりの通り、「映像+音声」の人よりも音声の波形が大きく波打っています。映像がある場合、ビジュアルに気を取られメッセージへの意識が弱まり、音声だけの方がメッセージに集中してより伝わるという結果となっていました。
あくまで私の仮説ですが、メッセージが響きやすいのは実は音声で、記憶や脳の活性化に影響しているのではないかと考えています。
つっかかりさえも“人間味”として好意的に受け取られる
八木:音声メディアで放映される番組(コンテンツ)は、多くが自然な会話や語りです。話し手の間違いやつっかかりさえも、人間味として受け取られ、親近感を生み出すことがあります。
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