公開日:
更新日:
企業アカウントの常識を覆す 80万人を熱狂させるシャープのSNS戦略
企業のSNS活用が飛躍的に進む中、X(旧:Twitter)上で80万人を超える驚異的なフォロワー数で異彩を放つ企業アカウントとして注目されているのが「SHARP(@SHARP_JP)」です。着飾らない直球な発信や親しみやすい雰囲気、そして愚直なまでに1対1の対話を重視するアプローチで、企業アカウントの新たな可能性を切り開いています。
アカウントを運営する山本隆博氏は、テレビCMなどのマス広告担当からXの運用担当に転身。広告制作側の時に抱いていた「しんどさ」をバネに挑戦を決意したといいます。時に「ゆるい」と評される独自の発信スタイルで幾度となくニュースを賑わせ、企業と消費者のコミュニケーションに新風を吹き込んできました。
アドクロ編集部では、この公式アカウントで舵取りをしてきた山本氏に取材を実施。2回に分けて、SHARP「中の人」を紐解きます。第1回では、日々のX運用で大切にしてきたことを聞き、第2回ではSNS時代における企業コミュニケーションの在り方について深く掘り下げていきます。
SHARP(@SHARP_JP)とは
SHARP公式アカウント(@SHARP_JP)は、X(旧Twitter)上で注目を集める企業アカウントです。運営者の山本隆博さんは、独自のスタイルで80万人を超えるフォロワーを魅了し、多くのユーザーから信頼と共感を得ています。
このアカウントの特徴は、「ゆるい」と評されるツイートスタイルにあります。時事ネタや製品情報をユーモアを交えて伝えることで、フォロワーとの距離を縮めています。
【SHARPアカウントの投稿例】
フォロワーとの1対1の対話を重視するアプローチも魅力の1つです。質問や意見に対して即座に丁寧な返答を行い、ユーザーとの信頼関係を構築。この姿勢が、多くのユーザーからの支持を集める要因となっています。
広告制作担当の時に感じていた「乱暴さ」
編集部:Xの担当になる前はどういった仕事をされていたのですか。
SHARP:自社広告の制作担当をやっていました。シャープの場合、広告会社から提案を受けて、広告会社と一緒に制作を進めていくので、私はシャープ側の制作担当という感じです。
【アカウントを運用する、シャープマーケティングジャパン株式会社 山本隆博 氏】
当時感じていたのは、なんていうかな、提案を受ける側って“乱暴”ですよね。お金を払ってる方がそんなに偉いかっていうぐらい偉そうにしますよね。
編集部:“乱暴”と言いますと。
SHARP:意図をもって作られたクリエイティブが「気分」や「なんとなく」あるいは社内事情で変わっていく様子を間近で見ていたんですよ。私は、広告会社から提案をもらう立場にいたので、一番初めのクリエイティブは知ってるわけです。一番初めだから、おそらく社内で100の状態を知ってるのは僕だけです。
だから、最終的にオンエアされた時、広告のことばの輝きがどれだけ目減りしているかっていうのを本当に実感できたのは、多分僕と広告会社の作った人たちだけ。その間にいる人(=決裁権を持っている承認者)って、別にビフォー・アフターを知らないわけですよ。ビフォー・アフターを知らないほうが、よっぽど平和に暮らしていけるというか…うん、しんどかったですよ。
「その日、その瞬間」まで何が起こるかわからない
編集部:そこからX(旧:Twitter)の担当になったわけですね。
SHARP:はい。企業SNSの醍醐味は、言葉をそのまま社会の外に出せること。今までビフォー・アフターを見続けてきた立場として、これは革命ではないかと思いましたね。
編集部:SHARPアカウントでは、結構頻繁に投稿されているイメージがありますが、普段から投稿数の目安とかって決めているのですか。
SHARP:いや、何も決めてないです。投稿数も決めてないし、いつ何を投稿するっていうのも決めていないですね。ぱっと出てきたことを投稿しています。
【2024年6月21日の投稿。この日は梅雨入りが発表されるなど、全国的に雨の1日だった】
編集部:事前準備をしない理由って何かあるのですか。
SHARP:「その日、その瞬間」まで何が起こるかわからないことが大きいです。
例えば、何月何日に「新サービスのリリース」をしたとか「冷蔵庫の新製品」が発売されるといった“企業の営み”ってあるじゃないですか。個人の事情とは関係なしに、あらかじめ決まっている日程。
これはあくまで企業側が勝手に引いたスケジュールであって、例えば、大きな災害があったとしたら、そんなこと言っていられなくなりますよね。
会社が傾いてるときには、その傾いてることに言及した記事が出たりするんですよ。それは一般的には企業にとっての逆風として認識するニュースだと思うけど、そういったリアルタイムな状況も踏まえて、どう発信をするかっていうことを考えないといけないと思うんです。
だから、予め計画していても意味がない。その瞬間に、どういう世相にあるかっていうことを盛り込まなきゃいけない。計画を重視するあまり固執してしまう人もいますし、そこを僕は排除したいんですよね。
編集部:当日何が話題になっているかなんて、誰も分かりませんよね。
SHARP:特に「キャンペーン」はそうです。キャンペーンってめちゃくちゃお金をかけたり、頑張って仕上げてローンチまで苦労して仕事をするわけじゃないですか。それで、ローンチしたら打ち上げしますよね。
ただ、本当はキャンペーンを“見た人のリアクション”を考慮した上で、すぐに次の動きを考えないといけないと思うんです。だから多分ローンチした後が、めちゃくちゃ重要なわけですよ。本当に、当日何が起こるかわからない。
だから、Xで投稿していく上で、決めた計画通り動くっていうことは僕は重要だと思ってない。特にSNSは情報が早いですから。早いですけど、“出す前”に反応があるってことはあり得ないんだから、やっぱり出た瞬間からでしょうね。出すまでってのは何考えたって仕方ないですし、「多分、予想もつかないこと起こるんだ」って思ってローンチしたほうが良いと思うんです。
「発売日」ではなく「初めて夏日になった日」の方が大事
編集部:とはいえSHARPの場合、家電など新商品発売と連動した投稿とかも多そうですよね。
SHARP:たしかに、社内で何か商品を発売することになれば「発売日にXで発信して欲しい」って言われます。でも、例えば「エアコンの発売日」っていうのは、SHARP側の勝手なわけですよ。
投稿を見る人のエアコンが壊れているなら話は別ですが、大多数の人にとって企業が決めた「発売日」なんて知らなくてもいいわけです。勝手に「発売日」を決めて、こっちの都合を発信してるだけだと僕は思うんですよね。
そうでなく、「その年の初めて夏日になった日」にエアコン関連の発信をした方が、勝手さがなくなるわけです。みんなが暑いと思っているから。
そこでやっと発信と受信のバランスが成立すると思っています。よっぽど皆さんが好きなコンテンツであれば、「発売日」の切り口が多分成立すると思うけど、ほとんどの場合、成立しないですね。
編集部:発信するタイミングをだいぶ意識されているのですね。
SHARP:何を発信するかも大事ですけど、僕は“いつ”発信するかってのが相当なウエイトを占めてると思います。タイミングに関してはよく考えないといけない。何をやるか色々考える前に、いつやるかっていうのを見直せば、相当改善すると思う。
数字よりも「お客さんの声」
編集部:普段、投稿ごとに効果計測ってしているのですか?
SHARP:効果計測はやらないです。正確には、誰か別の人がデータが必要だったら提供していますし、私以外の人がたまに分析しているのは知っています。
編集部:山本さん自身が効果計測をしない理由が何かあるのですか。
SHARP:数字だから。数字は数字でしかないから言葉を書く人間にとっては意味がない。そんなことより「お客さんの反応やリプライこういった意見があった」というエピソードを大切にしています。
だから、ポストされた具体的な声を僕は全部見てる。そっちの方が大事ですよね。そのリアクションは数字じゃないし、効果を測るために数字を見るのは各商品の担当者など、必要な人だけでいいと思っています。
さらに言えば、広告担当として広告を作っていた時から感じていましたが、広告ってやった人が自分の仕事を自分で測るでしょう。それはおかしくないですかって。冷静な計測は、多分当事者じゃない人が測るべきだと思う。
直接関係していれば「良く見せよう」と言い訳ができますから。そういう意味では、別の人がXの反響を取るのは僕は全然いいと思うし、その分析してもらってもいいと思いますね。
この記事は役に立ちましたか?
- 週間
- 月間