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広告費は年間3億 「きぬた歯科」が唯一攻略できていない意外な広告
街中を歩けば思わず目を引く派手な看板、黄色背景に大きく「インプラント」の文字と眼鏡をかけたおじさんの顔写真。東京都八王子市にある歯科医院「きぬた歯科」の広告戦略は、まさに独創的です。
「きぬた歯科といえば看板」といったイメージを持った方は多いかもしれませんが、テレビCMを始めとしたマス広告やスポーツスポンサーまで、幅広い施策を展開しています。
アドクロ編集部では、きぬた泰和氏に直接取材を実施。本記事では看板以外の話や、10年以上やり続けても攻略できていない“意外な”広告媒体について話を聞きました。
【きぬた歯科 羅田泰和(きぬた やすかず)院長】
タレントの領域に?看板ミーム化
編集部:最近、他の企業様の広告にきぬた院長が出演されているのを見ました。
きぬた歯科:あれは相手から全てオファー頂いています。最近お声がけいただく機会が増えましたね。写真を送って自由にチョイスしてお使いくださいって感じでやっています。
【JR恵比寿駅前で展開された不動産投資アプリ「楽待」とのコラボ広告】
最近、埼玉の方で「インプラントは出来ないが土地誘致は俺に任せろ!」ってコラボさせていただきましたが、僕はお金を払っていなければ、お金をもらってもいません。
【埼玉県飯能市の下川崎交差点にある看板(画像提供:看板研究家 D.J.マメ氏)】
本来タレントがやる仕事ですよね。ただ、ネットの方が拡散力があるってバレてしまったっていうか、コストもかからないし、そっちの方がいいんだって皆気づいてしまったわけで。
きぬた歯科も宣伝になっているし、相手も宣伝になっている。僕のビジネスの基本はWin-Winじゃなきゃ駄目だと思っています。誰かが得して、誰かが損すると絶対不満が生まれるんですよ。なので僕はお金をもらいません、使ってくださいというスタンスでやっています。
知名度も上がるし、それがバズればそれでいいじゃないですか。ある意味ミーム化してるんです、まさに「看板ミーム化」ですね。
テレビCMは不思議と3年やるとリーチの限界に達する
編集部:看板以外で今実施されている広告はどういったものがありますか。
きぬた歯科:今出している広告は看板、折込、テレビCMのタイム枠、ラジオです。トータルで年間3億くらい。だいたい看板2億、テレビ4500万、ラジオ2500万、チラシ1200万。
編集部:看板の次はテレビCMを多く実施されているのですね。
きぬた歯科:そうです。テレビCMはタイムとスポット(※)の2種類がありますが、タイムで出稿しています。タイムは番組に張り付いて、徐々に予算を使っていくタイプだから予算が少ない中小企業向けなんですよ。
※タイムCM:「この番組は○○のスポンサーの提供でお送りします」というナレーションを見たことがある方も多いと思いますが、タイムCMは、番組のスポンサーとなることで、番組に含まれるCM枠内で放送する広告を指します。
※スポットCM:「土曜日の深夜」など、曜日や時間帯を選択し、番組を特定せず放送されるテレビCMを指します。
最初は週1でテレビ朝日「スーパーJチャンネル」って番組からスタートしました。曜日を変えたりしながらやりましたが、不思議とトータルで3年やるとリーチに達するんですよ。これは感覚的にわかります。
そこからTBS「Nスタ」に変え、やっぱり3年くらいするとリーチに達した感覚があったので、最近スーパーJチャンネルに戻しました。CMは週1ですが意外とよかったです。ただ、予算がないと回収は出来ないですね。僕の感覚だと3年はやらないとダメだと思います。
10年以上やり続けても上手くいかない媒体
きぬた歯科:紙媒体、看板、テレビ・ラジオってやったんですけど、唯一攻略できないっていうか、うまくいかない媒体があるんですよ。これ、なんだかわかりますか?
編集部:今までのお話からすると、ラジオでしょうか…?
きぬた歯科:そう!自分の中で唯一上手くいっていないのがラジオなんです。
10年間、TBSラジオでCMを流していたんですよ。ただ、全然効果が無く…さすがに10年やってダメなら辞めようと思ったんですけど、うちの兄(横浜きぬた歯科)がFMヨコハマでバズっているんですよね。「ちょうどいいラジオ」っていう番組で集中的にやっていて。
それを真似て、僕はニッポン放送で高橋みなみさんとタッグを組んで番組をやってみたんですよ。
ただ…高橋みなみさんは頭の回転が早く、機会があればまた一緒に仕事をしたいのですが、ニッポン放送の都合で毎月1~2回休みがあるため、1年半やってもダメでした。今年の4月からTOKYO_FMの人気番組「誰かに話したかったこと。」に出ていますが、今の感覚では厳しいかなと思っています。横浜を見習って歯の話をしたりしていますが、ちょっと駄目かなと。肌感覚ではありますが。
編集部:なにか上手くいかない要因はあるのでしょうか。
きぬた歯科:自分なりに分析して、ラジオはなぜ上手くいかないのか考えてみると、東京だとチャンネルが多すぎることにあるのではないかと。
文化放送やTBSラジオ、J-WAVE…と局と番組が沢山ありますよね。ただ、FMヨコハマのようにローカル局は地元の方も多く聞いているから良かったりするのかなと。だから今思うと、実は八王子の隣、埼玉エリアで人気のあるNACK5とか良かったんじゃないかな。
とはいえ、TBS、ニッポン放送、TOKYOFMとラジオを10年以上やり続けて、3度目の正直なので、今回ダメならラジオからは年内で完全撤退しようと思っています。負けを認めるっていうか。
こんなはずじゃないこんなはずじゃない、俺の見立てが間違うはずないっていうので、ズルズルズルズル突っ込んでいる状態なんでね。
パンツに広告を出して大バズリ
編集部:その他、RIZINのスポンサーをされたりもしていましたよね。
きぬた歯科:スポーツのスポンサーですね。RIZINはRIZIN17から協賛をスタートしています。RIZIN17の開催前にスポンサーが抜けちゃって。直前で安くやれたので、コーナーフラッグをやってみたのがきっかけです。
そこから、何度か出ていたのですが、ある時、ブラジリアン柔術のクレベル・コイケ選手のパンツに広告を出したことがあって。これがとてもバズりました。
試合の1週間前にいろいろと考えまして。朝倉未来は格闘技界のスター選手です。その朝倉選手と戦うクレベル選手ってあまり知られていない(※2021年当時)だけど強い。強いけど、たぶんスポンサーは少ないだろうなと思ったんですよ。
カメラは間違いなく、主役である朝倉選手を正面に捉えるはず。なので、パンツに僕の名前入れたらめちゃめちゃ目立つんじゃないかなと思って、1週間前に出稿を決めたわけです。
【きぬた院長、当時のX上での発信】
ただ、もう撤退しています。医療と格闘技っていうものが、あまり親和性がなかったんですよ。僕は骨董品が好きなんですが、骨董品でいうところの日本刀のようなイメージです。日本刀ってすごく美しいし、キレイなものなんですが、人の見方によっては凶器と表現する人もいるわけです。
それと同じで、格闘技=暴力と捉える人がいるんですよ、どうしても。むしろそっちのイメージの方が強い。医療機関とそこのイメージが乖離して、払しょくしきれなかった。だから撤退しました。
編集部:最近、法政大学の駅伝スポンサーをされていますよね。
きぬた歯科:大学関係者から僕に話が舞い込んできたんですよ。スポンサーで入っている会社が抜けちゃって、探してるんだけどきぬた歯科さんでやってくれませんかって。ちょうど格闘技撤退していたので、何か違うものがあるかなと考えていたときでした。
考えたんですけど、プロスポーツ含めて視聴率が30%近いスポーツコンテンツって、箱根駅伝ぐらいしかないんですよね。ワールドカップはいくかもしれないけど、広告費は桁違いの金額になるじゃないですか。
ただ、広告サイズも大きいわけではないし、そもそも走っているから動くし、選手が抜いたり抜かれたりするから、カメラが追ってくれるかどうかわからないリスクはあったんです。それを加味しても、ちょっとやってみようかなと。
結果的に、区間賞の武田選手はレース後、ロゴの入ったジャケットでインタビューを受けていたんですが、スポンサーロゴの前に法政のマスコットの人形があって。それで見え隠れして、“ぬた歯科”とか“きぬ”とかそんなふうに見えてたんですよ。
後から聞いたら、テレビ局側に言われたそうなんですけど、結果隠してもらってよかったかもしれないです。逆に注目が集まりました。
施策ごとに細かい計測はしないし、出来ない
編集部:普段、各施策に関する効果検証ってどのようにやられているのでしょうか。
きぬた歯科:アクセス数とかそんなことはどうでもよくて、結果(=売上)が全て。こっちは身銭切っているので。多くの場合、「何人リーチがあって、アクセスがあった」といった、レポートを書いて終わりにし、レポートを読んだ人も、これでいいよってなっている。これは違うと思いますね。
どうやって計測するとか細かいことを気にしているより、体感的に毎月来ているなって感覚と、その年の売り上げとか利益とかを見て、来たんだなっていう判断でいいんです。何でも数字で見れると思ったら大間違い。
箱根駅伝1本でどれだけのお客さんが来たかって、もちろん計測はできてないないですよ。できていないですが、10月決算で去年が一番良かったんですよ。さらに言えば、今年はもっといい。だから、絶対効果として出ているんですよ。
【渋谷区の首都高初台南に設置された看板(画像提供:看板研究家 D.J.マメ氏)】
みんなが同じことやってるから、同じ結果しか出ない。僕みたいな西八王子の歯医者が首都高4号線に看板15枚出しているんですよ。一般の企業でも予算的に見ても絶対できるはずなんです。
自分の身になって、自分のお金だと思ってやってほしい
編集部:広告やマーケティングを担当する上で、意識しておくべきポイントや考え方はありますか。
きぬた歯科:自分のお金を使ったと思ってやってほしいです。担当者は特に、自分のお金を使って、果たしてこれに投資するのかという視点が欲しいですね。
以前、小売店とカップ麺を製造するメーカーのやりとりに密着した番組を見たことがあって。バイヤーが、販売状況をみて棚の場所を変更したり、撤去したりジャッジしていくわけです。
そのとき思ったのは、メーカーは実際に売り場へ行って、消費者が商品を手に取る様子や、元の場所に戻す様子を見たりしているのかなと。例えば、場所によって売れ方って違うと思うんですよね。
栃木と大阪では、間違いなく好みの違いはあるじゃないですか。それこそ、麺の太さであり味付けであり、パッケージの形やデザイン、あるいは3分で出来るクイックさに価値を見出しているのか。現場を知っていれば、恐らく消費者の傾向がわかるはずなんですよ。
何が言いたいかっていうと、全部自分の身になって、自分の会社だと思って、自分のお金だと思ってやってほしいってことです。自分が、税金を払った上で残ったお金を投資するに値する施策なのかとかいうことを常に考えてほしい。そう考えた方が楽しいし、レスポンスが来れば面白いんです。
いろいろやって自信を持って、自分で体験を積むことによって、自分でもビジネスをして、広げられるかもしれないですし。
【2024年7月に書籍を発売するそうだ。販売ページはこちら】
無限の広がりがあるので、せっかくマーケティングって仕事をするなら、自分目線でやると面白いですよっていうところですね。そういうことも含めて、僕の本も読んでください。全部いろいろ書いてありますから。
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