【実践】経営の不安を引き出し、戦略の確度を高める
1.数字の裏にある「経営の不安」を引き出す
柳井：マーケティング予算や目標の背景にある「経営の不安や期待」を引き出すために、どのような質問を投げかけますか？
河西：「なぜこの目標を達成したいのか」よりも、「なぜこの目標数値なのか」を聞きます。
柳井：具体的な数字に切り込むんですね。では、その質問の意図をより深く理解するため、私がクライアント役として、河西さんの質問を実際に受けてもよろしいでしょうか。
河西：わかりました。では柳井さん、「平均月商が前年90万円で、目標が今年100万円。ちなみに150万円はいけると思ったんですが、150万円ではなく100万円の理由ってなんですか？」
柳井：「150万円だと、おそらく達成自体は頑張れば可能かもしれませんが、今の人員だと受注が増えすぎた場合、エラー処理が追いつかなくなって、クライアントに迷惑をかける不安があるからです。正直、今のアシスタント体制では厳しいというリソース不足の不安があります。」
河西：「目標達成の「期待」の裏に、クレームや品質低下といった「不安」が隠れているんですね。では、そのリソース不足という「不安」が解消できる、例えば、優秀なアシスタントを1人追加するのであれば、目標は150万円に引き上げられそうでしょうか？」
柳井：「はい、引き上げられそうです。そう考えると、私の真の課題は集客ではなく、リソース（スタッフ）の確保ということになりますね。」
河西：数字の裏に隠された経営層の真の不安、つまり目標達成を妨げているボトルネックを見抜くことで、マーケティング戦略だけではない、経営改善としての戦略の道筋が見えてきます。
2.データとヒアリングが食い違ったときの判断基準
柳井：データ（数字）とヒアリング（本音）が食い違った場合、何を判断基準にして戦略を決定されますか？
河西：最終的には、両方を含めて総合的に判断するしかありません。データや口コミはあくまで判断材料の一つであり、すべてが正しいとは限らないからです。クライアントが優先したい短期的なビジョン（リード獲得）をまず行い、口コミで指摘された接客改善などを中期的なビジョンとして並行してアドバイスする、といった時間軸も意識しながら戦略設計をします。
3.失敗を避けるヒント：「自分で絵を描きすぎない」
柳井：ヒアリングの失敗から学んだ教訓を教えてください。
河西：失敗の傾向は、ヒアリング中に「自分で絵を描きすぎないこと」です。ヒアリング中に「こういうイメージだろう」と自分の頭の中でソリューションが出来上がってしまうと、それ以上深く聞かなくなり、相手の真の要望とのズレが生じます。
柳井：具体的にどのような状態でしょうか？例えば、「この課題にはこの施策しかない」と決めつけてしまうことですか？
河西：特に経験が長くなると、「この業界なら、この規模なら、この課題だろう」と過去の成功体験が先行してしまいがちです。その結果、目の前のクライアントが本当に抱える固有の課題や、経営層の本音を最後まで引き出せずに、表面的な解決策を提案してしまう失敗に繋がります。
河西：大事なのは、自分が絵を書くんじゃなくて、相手の脳みそに書いてあるものを自分の脳みその中に書くイメージです。
大事なのは、自分が絵を描くのではなくて、相手の脳みそに描いてるあるものを自分の脳みその中に描くイメージです。
結論：「愛」が次世代マーケターの羅針盤に
1.信頼構築の唯一のコツは「愛」
柳井：失敗を避ける技術についてお伺いしましたが、最終的に戦略が動くかどうかは、私たちとクライアントさんとの関係性にかかっていると思います。そこで、ヒアリングの技術や戦略以前に、信頼を築く上で最も重要な「心構え」についてお聞かせいただけますでしょうか。
河西：信頼構築のコツは、「目の前の人のことを愛する」ことです。自分の商品を売るためではなく、「この人を幸せにしたい」「この会社にハッピーになってもらいたい」という気持ちを根底に持つこと。この愛と、相手の話をしっかり咀嚼（そしゃく）する姿勢が伝わることで、自発的に本音が出てくるようになります。
2.30年後も活躍するマーケターへのメッセージ
柳井：30年後も活躍するマーケターであり続けるために、最も大切なメッセージをお願いします。
河西：「愛を持って人と接し、活動する」ことです。
例えば戦略を立てるのは私かもしれませんが、最終的に実行するのは企業現場の人々の人々です。「皆さんと一緒に事業を良くしていきたい」という思いを言葉で伝え、現場と同じ方向を向く環境を作ること、それには、愛を持って接していないと、人は動かないのです。
ヒアリングは「愛」と「戦略の確度」を高める最上流スキル
本コラムを通じて、河西氏の30年にわたるキャリアに裏打ちされたヒアリングの極意は、単なるコミュニケーション技術ではなく、戦略の成否を分ける最上流スキルであると確信しました。
データ分析の時代だからこそ、私たちは以下の3点を徹底し、マーケティング活動の確度を上げていく必要があります。
- 数字の裏にある「不安」を掘り下げる: 「なぜ○○ではないのか？」と問うことで、真の課題を見抜く。
- 「リミット」を外し「本音」を引き出す: 「もしこうだったら」という仮定を通じて、相手の心に眠る潜在的な願望を明確にする。
- 信頼構築の土台は「愛」である: 自分の商品を売るためでなく、相手の成功と幸せを心から願う姿勢こそが、本音を引き出し、人を動かすための唯一の近道である。
柳井紗緒里 CitrineWebDesign
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