地域と顧客と共に歩む、藤田屋の描く未来
柳井： 4代目として事業を継がれ、伝統を守りつつも新たな挑戦をされています。事業承継を成功させるために、特に重要だと感じた実践的なポイントや、円滑な引き継ぎのために工夫されたことがあればお聞かせください。
藤田：私自身、まだ事業承継は完了していません。重要だと感じているのは、先代が何を大事にしたかという「価値観」を深く理解し、それをすり合わせることです。利益追及やマーケットインの発想は当然必要ですが、自社の歴史や価値観を守ることも必要と考えます。また、伝統企業は良くも悪くも既存の経営資源の制約があるため、それらも加味しながら絶妙なバランス感覚を持っていかないと事業継承はうまくいかないなと感じてます。
入社したばかりの頃は、そもそも会社としての旗印がなく、「地方の中小企業は社会的に必要なのか？」という問題に直面しました. 社長や社内スタッフと話し合いを重ね、会社の価値観やビジョンを明確にしていきました。しかし、これを年頭の方針報告で話すだけでは、まだ一人ひとりの文化になっていません。このビジョンを文化として定着させるために、これからどうやりきるかが課題だと感じています。
また、中小企業こそ、ミッション・ビジョンを持つべきだと考えています。このビジョンが明確であれば、クラウドファンディングやメディアからの取材など、外部からの協力も得やすくなります。
柳井： 今後の藤田屋さんの事業展開において、具体的に注力していきたい分野や、挑戦してみたいことがあれば教えてください。
藤田： 今後は、静岡の伝統工芸品を傘づくりに取り入れる「Made in 静岡」の取り組みを広げていきたいです。また、職人の高齢化が進む中、傘づくりの文化を地域に根付かせるため、工房を復活させ、新しい人材を育成したいと考えています。
中小企業こそ、ミッション・ビジョンを持つべきだと考えています。それが、事業を未来に繋ぐ上で非常に重要です。なぜ社会に必要とされるのか、という問いに常に向き合うべきです。
ピッチコンテストやクラウドファンディング、メディアに出演させていただく際、私は一貫して「どういう世界を描いていきたいか」というビジョンの話しかしていません。そういうビジョンを持つことで、結果的にファンを獲得したり、認知を広げたり、会社の味方やサポートを集めることに繋がると感じています。
取材後記
今回の取材を通じて、藤田屋さんの取り組みが、すべてマーケティングの本質に通じているということがわかりました。老舗企業だからこそできる、手間暇をかけた修理サービスは、一見非効率に見えますが、お客様との長期的な信頼関係を築く「ブランドマーケティング」そのものでした。
また、クラウドファンディングの成功は、単なる資金集めではなく、「思い」や「熱意」を伝えるコンテンツを核に、共感を呼ぶ「ストーリーマーケティング」として機能していました。
藤田さんが語る「中小企業こそミッション・ビジョンを持つべき」という言葉には、大きな示唆がありました。この確固たるビジョンこそが、クラウドファンディングでの成功や、メディアからの取材を呼び込むなど、すべての活動の原動力になっているのだと実感しました。ただ数を集めるのではなく、本当に必要としている人に、必要な形で届くように設計する。その丁寧さこそが、結果として事業の未来を拓くのだと実感しました。
柳井紗緒里 CitrineWebDesign
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