OOH(屋外広告)とは|市場規模や事例、費用など
以前は広告費の大きなウェイトを占めていたのがいわゆるマス4媒体と呼ばれるテレビ・新聞・雑誌・ラジオに出稿する広告でした。しかし、近年はインターネット広告がマス4媒体をしのぐ成長を見せており、2019年にはついにインターネット広告費がテレビCMの出稿額を超え、従来の広告業界の様相も変化してきています。そのような中、インターネット広告と同様に広告出稿額を伸ばしてきているのがOOH広告です。OOH広告は場所によってはマス広告に匹敵するリーチを狙うこともでき、狙ったターゲット層に対して効率的に訴求することもできる費用対効果の高さが注目されています。
今回はOOH広告について、その種類や特徴、事例などを紹介していきます。
OOH(屋外広告)とは
OOH広告は「Out of Home」の略で、自宅以外の場所に設置された屋外広告全般のことを指します。OOH広告の種類は多岐にわたり、街頭ビジョンや看板、交通広告、広告がラッピングされたトラックなどもOOH広告にあたります。また、交通広告の中にも電車内や駅での広告や、バス、新幹線、飛行機での広告、タクシー車内の広告も近年は多く見られるようになりました。たとえば、渋谷駅には多くのOOH広告が掲載されています。スクランブル交差点にはいくつもの巨大液晶ビジョンや看板が存在しており、JR渋谷駅のハチ公口周辺にも多くの大型ポスターが設置されています。また高い頻度でアドトラックが車道を通り過ぎていくのも日常的な風景になりました。これらのOOH広告は、渋谷駅を日々訪れる数百万人の人々の目に等しく何回も接触され、中にはSNS上で話題になるような広告も多く出てくるようになりました。
OOH広告の市場規模
2010年代に入ってからマス4媒体のうちラジオや新聞、雑誌広告のシェアが徐々に減り、代わりにインターネット広告とOOH広告が急成長を見せていました。電通の「2019年 日本の広告費」によると、2019年のプロモーションメディア費は2兆2,200万円となり、インターネット広告に次ぐシェアとなりました。
しかし、2020年は新型コロナウィルス感染症の流行により、外出自粛などの感染拡大防止策がとられました。このことにより、街に人がいない状況が続いたため屋外への出稿も減少し、2020年のOOH広告の広告費は前年比75%のマイナスとなりました。広告費全体も前年比88%と減少していますが、その中でもOOH広告はコロナの影響を大きく受けました。
その後、コロナ感染者の減少や規制緩和に伴い、OOH市場も回復傾向となりました。2022年の世界のOOH市場は、2019年の売り上げを上回るほどまでに回復。日本のOOH市場も、2023年の売り上げは前年比約10%増が見込まれています。
今後は、デジタルサイネージの普及やOOHのターゲティング精度向上により、DOOH(デジタルサイネージを活用した屋外広告)のさらなる発展が期待されています。
OOH広告の種類と料金イメージ
それでは具体的にOOH広告の種類とおおまかな料金について紹介していきます。
デジタルサイネージ(屋外ビジョン・街頭ビジョン)
OOH広告で最も特徴的なのが街頭ビジョンなどに代表されるデジタルサイネージです。渋谷駅に代表されるような巨大な街頭ビジョンや、駅構内のデジタルサイネージなど、様々な場所で目にすることができ、ポスター広告などと違って映像を流すことができるのが大きなメリットです。
最近ではDOOH(Digital Out of Home)と呼ばれることも多く、5Gなど通信技術の発展によって、時間帯や気温、通る人の状態など様々な状況に合わせてコンテンツを変化させることができる技術も進んできています。海外ではDOOH広告の成長が見込まれていて、日本でもこれから市場規模の拡大が期待できる分野です。デジタルサイネージというと駅などの交通機関のものが思い浮かびますが、店舗や商業施設に設置されることも多く、2020年には美容サロンに設置されることに特化したデジタルサイネージメディアのサービスが開始されるといった動きも出てきています。出稿費用は媒体や場所によって様々で、たとえば渋谷駅スクランブル交差点の街頭ビジョンだと月額300万円程度、渋谷駅構内のサイネージだと1週間で200〜300万円程度になります。
看板広告
看板広告はOOH広告の中で一番イメージしやすいものかもしれません。屋外に掲出される看板広告は多岐にわたり、駅周辺に設置されているものから、道路沿いの看板や、スタジアムなどに設置されている広告も看板広告と呼ぶことができます。
人気のエリアでない限り、看板のOOH広告は長期間での契約が一般的です。道路沿いなど日常的によく通る場所にいつもある看板を目にすることで、高い広告費をかけなくてもブランドイメージを生活者に植え付けることも可能です。普段の生活ではなかなか広告を注視することがなくても、何度も目にすることで意識に残すことができるのがOOH広告を長期間掲出するメリットです。広告料金はどれくらいの人に触れられる場所かによって千差万別ですが、たとえば渋谷駅ハチ公口の大型ボードだと1週間で800万円程度の広告出稿費になります。
その他、看板広告の種類や事例など、以下の記事で詳しくまとめていますので、ぜひご覧ください。
交通広告(電車、空港、バス、タクシー)
各種交通広告もOOH広告のひとつとして数えられます。電車やバス内の中吊り広告や空港内の各種広告、飛行機内にも様々な広告媒体が用意されています。交通広告は種類によってはターゲット層に効率的にアプローチすることができるのが特徴です。駅でも若年層が多く集まる駅、ビジネスパーソンが日々通勤で使用する駅、大学が近くにあって学生が利用する駅など、街の特徴によって利用する層が変わってきます。そのため、特定のエリアを利用する層に対して効果的に訴求することができるのが交通広告のメリットです。他にも、飛行機や新幹線はビジネスで利用する人が多いため、空港や新幹線にはビジネスパーソン向けの広告が多く出稿される傾向にあります。近年はモニターが設置されているタクシーも多くなり、タクシー車内もBtoB広告が効果的なOOH広告の媒体として注目されています。料金は路線や場所によってまちまちですが、たとえばJR山手線の中吊り広告を1週間掲出する場合、サイズにもよりますが400〜900万円程度の広告費になります。
その他、交通広告の種類や事例など、以下の記事で詳しくまとめていますので、ぜひご覧ください。
アドトラック
街中を駆け抜けるアドトラックもOOH広告のひとつです。多くの人が行き交う繁華街を走るため注目されやすく、走行ルートがある程度決まっているために何度も接触されることも期待できます。
アドトラックは特徴的な装飾にすることも可能で、街中を特徴的なトラックが走行するシーンはSNSなどでの拡散されることも多く、単純な広告接触以上の効果も期待することができるOOH広告です。最近はデジタルサイネージを搭載したアドトラックもあり、場所や時間帯によって広告内容を切り替えることができるようになっています。料金は1週間で200万円程度と比較的安価で多くの人の目に触れさせることができるため、コストパフォーマンスが高いOOH広告として知られています。
その他にも、トラック広告の料金や事例について、以下の記事で詳しくまとめていますので、ぜひご覧ください。
その他のOOH広告
OOH広告の種類は多岐にわたり、上記でご紹介した以外にも様々な種類が出てきています。たとえば、建設中のビルの仮囲いを利用した広告も多く見られるようになりました。大規模なビル開発の場合、都心の一等地にあることも多く、多くの人の目に触れるため高い広告効果が見込める広告媒体といえます。その他にも、昔ながらの電柱の広告もOOH広告といえますし、消火栓に広告出稿することもできるようになっているなど、OOH広告の種類や出稿場所は多岐にわたっています。
OOH広告のメリット
OOH広告には様々な種類のものがあり、近年成長を続けている広告媒体です。それでは、他の広告媒体と比べて、OOH広告に出稿するメリットは何でしょうか?ここではOOH広告の大きな特徴を3つご紹介していきます。
リーチ力
OOH広告は交通機関を利用している人や、街を歩いている人に対して強制的に見てもらえることができ、多くの人の目に入るリーチ力が特徴のひとつです。TVCMは飛ばすことができ、WEB広告も興味がなければ視聴されることはありませんが、OOH広告は必ず人の目に触れる広告です。たとえば、JRや私鉄など多くの路線が乗り入れる新宿駅は1日に約300万人もの人が利用します。そんな新宿駅で広告を掲載することで、何百万人もの人に広告を届けることができ、かつ高い頻度で接触してもらうことができます。日常的に使用する場所に掲出されている場合は何度も目にすることにもなります。場所や媒体にもよりますが、多くの人の目に触れるという接触回数と、何度も見るという接触頻度の高さも見込めるため、OOH広告はマス媒体に匹敵する効果を見込むことができます。
多様なクリエイティブ
15秒、30秒と時間の枠があるTVCMや、紙面の制限がある紙媒体の広告と違い、OOH広告には媒体の規格による制限が少ないのも特徴的です。電車の広告にしても、車両まるまるジャックする広告や、車体までラッピングする広告も多く見られるようになりました。
屋外の看板広告やサイネージ広告でも、大きな表現や横に長い広告が展開されることもあり、制限なく幅広い表現をすることができます。駅構内の長い通路を利用して何枚もの連続したビジュアルを掲出することもできますし、街頭や空港などの広い空間で従来の広告枠に収まらないような巨大な表現をして注目を集めることもできます。
効果的なターゲット戦略
OOH広告はある特定の「場所」に出すものなので、その場所にどういう人が集まるかが重要になってきます。若年層が多く集まる場所、ビジネスパーソンが多く集まる場所、大学が近くて学生がたくさんいる場所など、その場所によって出稿される広告の種類も変わってきます。マス広告は幅広い世代に対して認知を広げることはできますが、ある程度絞ったターゲット層に対して訴求したい場合は費用対効果がいいとは言えません。それに対して、OOH広告はターゲットが絞られた商材やサービスを広告する際に、出稿する媒体や場所を戦略的に選択することで狙っている層に効率的に当てることができるのが大きなメリットになります。
最新のOOHトレンド
OOH広告の事例
OOH広告のメリットを3つご紹介しましたが、ここではOOH広告の特徴をうまく活かした事例を3つ紹介していきます。
日本一横に長い広告
出典:3月17日、代々木八幡駅に日本一長い交通広告看板が誕生します 広告第1弾は、「キリン 午後の紅茶」発売35周年企画
小田急小田原線の代々木八幡駅のホーム壁面に長さ124mにも及ぶ交通広告看板が設置され、2021年3月にはキリンビバレッジの「キリン 午後の紅茶」の広告が掲出されました。「午後の紅茶 しあわせ写真館」と題したこの広告は、家族や友達などとの幸せな瞬間を切り取った写真をホームいっぱいに展開した広告で、連続性のある横に長い看板広告の特徴をうまく生かしたクリエイティブとして話題になりました。
受験生向け広告
出典:「ひとりじゃない!」 明治R-1が孤独や不安を感じる全ての受験生に贈る 思わずほっこりする“受験生あるある広告”
明治が販売する「明治プロビオヨーグルトR-1」が2021年2月に展開した受験生向けのOOH広告が話題を集めました。受験シーズン真っただ中の時期に、受験生から集めた様々な「受験生あるある」を渋谷駅前の看板や東京メトロ銀座線、丸ノ内線の車内で広告として掲載しました。受験シーズンに学生が多く利用する電車で展開されたことで受験生の間で話題になったのはもちろんのこと、受験生以外でも思わず「あるある」と納得してしまうようなユニークな内容が広く話題になった施策です。
地域企業の広告
出典:【キョウエイアドインターナショナル】大垣ケーブルテレビ新ロゴデザインの養老鉄道ラッピング電車が運行開始
その場所ならではの広告が展開できるのもOOH広告の特徴のひとつです。2021年に開局30周年を迎える岐阜県大垣市の大垣ケーブルテレビはロゴマークのリニューアルに際して、地元の養老鉄道にてラッピング電車を走らせました。長らく地元住民の足として親しまれてきた養老鉄道を広告媒体として活用することで、メッセージを伝えたいターゲットに対して効果的に伝えることを狙ったOOH広告の実例です。都心部だけではなく、地域に密着した広告を出稿できるのもOOH広告の特徴のひとつです。
エイリアンを乗せたアドトラック
3D屋外広告
まとめ
ここ十年程度でマス4媒体の力は弱まり始め、代わりにインターネット広告やOOH広告の広告費が伸びてきています。SNSやデジタルの発展によって広告業界全体が大きく変わってきている中で、多様な形態が選択でき、消費者により近いところで訴求することができるOOH広告は今後も成長が期待されています。テレビCM などに比べて安価で効率的にターゲットに対して訴求できるのも大きな利点です。若年層への認知拡大を求めて渋谷駅をジャックする、ビジネスパーソンに訴求したいサービスをタクシーで展開する、観光客の購買拡大を狙って空港で積極的に広告展開する、というように場所や媒体を効率的に選択することで高い費用対効果を見込むことができます。一度、訴求したいターゲットを再設定し、そのターゲットに効率的にアプローチできるOOH広告を広告施策に組み込んでみてはいかがでしょうか。