40年間“一貫したトーン”が生み出した反響
ずっと継続される中で、広告からどういった反響がありますか
幡手（三和酒類）：弊社が設置しているお客様相談室には、毎月掲出された新デザインを見て「今回のポスターはこんな感じですか！」という意見や感想をいただいています。よく「ポスターが欲しい」というリクエストも寄せられますね。また、弊社が定期的に実施している市場分析からも、ポスターを入口としてiichikoの認知拡大につながっていることが確認できています。
その他、美術館などでの展示も3箇所から打診をいただいて実施しました。公的施設では通常、一企業のブランド展示は難しいものですが「iichikoのポスター展を開催したい」という声をいただいています。注目いただいているのが、40年以上続けてきたポスターのクリエイティブとコピーが時代をそのまま反映している点です。
現代において、同一ブランドが長期間にわたり一貫したトーンで続けてきた広告物は珍しく、コピーの中に世相が見えるという点で価値があるようでして。学芸員の方々がそこに注目し、独自の解説を加えることで新たな視点が生まれています。実際、私たちが展示する場合とはまた違う切り口で見せることができ、大きな反響を呼んでいます。
我々は酒類メーカーなので、ユーザーは成人以上の方になりますが、若い人の中にもこの広告をすごく好きだと言ってくれる方が数多くいます。必ずしもお酒を飲まなくても、我々のファンだと考えています。実際、この世界観を好む人がいて、その人が周囲に感想を伝えることで、友人きっかけで興味を持って飲んでみるというケースも決して少なくありません。
かつて飲食店では店主が「これ美味しいから飲んでみて」と勧めてくれることが多かったのですが、今はタッチパネルでの注文が増え、商品説明をしてもらえる機会が減っています。そんな時代だからこそ、心に訴えるメッセージが人から人へと伝わっていくことが重要だと考えています。広告媒体も多様化していますが、メッセージを伝えていくためにも、スタート時から続けているこのポスター広告は「やめない」という方針です。
今後挑戦してみたい取り組みなどありますか
横田（日本ベリエールアートセンター）：これまで、人々の心の中で「美しいもの」「よいもの」として捉えられるよう、iichikoの"イメージの品質"を高めてきたつもりです。これからも、iichikoというブランドが皆さんの心の中で「よいイメージ」を保ち続けれらるよう、継続していくことが私たちに課された使命だと考えていますし、より多くの方に見ていただける場を広げられればと思っています。
幡手：先日実施した渋谷でのイベントでは、これまでに制作した全てのポスターをデジタル化しました。元々、ポスターはあの大きさとあの紙質でリアルに見てこそ意味があると考えていましたが、そうした体験だけを求める方ばかりではないとも感じています。
現在はデジタル化が急速に進んでいるため、デジタルから入ってリアルなポスターを見るという流れもあると考え、デジタルアーカイブを作成しました。新しい手法を取り入れながら、より多くの人にiichikoのデザインに触れる空間を増やしていきたいと考えています。
自然の風景を撮影した写真を見て「これはiichikoのポスターみたいだね」と言う人もいるほど、特徴的なイメージが定着しています。変わらずにテレビCMでもBillyBanBanさんの歌を使い続けているため、BillyBanBanさんを見ると「iichikoの人だ」と認識されるまでになりました。40年近く一貫性を保って続けてきたことで、ひとつの確固たるイメージが形成されたのだと思います。
iichikoの世界観は、もはや私たちメーカーよりも、生活者の中に根付いていると考えています。だからこそ、そのイメージを大きく変えず、築き上げてきた世界観を崩さないよう続けていくことが大切だと考えています。
加藤誠也 アドクロ編集部
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