毎月544駅に掲載　iichikoはなぜ40年以上駅ポスターをやり続けるのか

更新日：2025年05月01日

毎月544駅に掲載　iichikoはなぜ40年以上駅ポスターをやり続けるのか

毎月544駅に866枚を掲載、40年以上駅ポスターを続ける理由

全国各地でポスターを見ますが、どのくらいの場所で掲載されていますか

横田（日本ベリエールアートセンター）：毎月、全国544駅で866枚のポスターを掲載しています。

東京に関しては、私鉄と東京メトロの駅を中心に展開しています。なるべく皆さんの日常動線の中に一緒にいれるような、日常生活に一番近い駅、ゆっくりと見ていただける場所を選んでいます。地方については、札幌や仙台のように日常的に地下鉄が使われる場所では掲載していますが、メインの交通手段が車のエリアも多いので、新幹線の駅を中心に掲載しています。

【最初に掲載された1984年4月掲載のポスター　提供：三和酒類株式会社】

最初から全国でやっていた訳ではなく、まずは当時の営団地下鉄（現：東京メトロ）だけで始めています。屋外とは違い、地下空間は無機質な空間だからこそ、自然を描写したポスターに違和感を感じてもらい、立ち止まっていただけたようです。

現在の「iichiko」知名度を考えると、駅ポスターは少し地味な気もしました

横田：先ほど話した通り、お酒は嗜好品のため、バーッと大掛かりな広告を出したところで買ってもらえる商品ではありません。ですので、なるべく皆さんに寄り添う形になるよう、日常生活に最も近い媒体である駅ポスターにこだわっています。広告を始めた当時も、一番伝播力のあるメディアとして「テレビCM」は存在していました。ですが、当時ではその予算は準備できませんでした。その上で何ができるのかを考え抜いた末に選ばれたのが、駅貼りポスターでした。

当時の三和酒類の専務さんからご依頼いただいたのですが、「駅に1枚ポスターを貼ってどうなるんですか？砂漠に水を一滴落とすようなものじゃないですか」という話もあったそうです。弊社からは「駅貼りポスターというのは弱いメディアで、一枚一枚には大きな力はないかもしれないが、長く続けることで“厚み”を増やしていきましょう」とお話させていただき、以降それを信じて40年実施いただいています。

開始当初のスタッフは、途中で終わるだろうと思っていたそうですが、結局40年以上もの間“厚み”を重ねてきました。結果的に、その“厚み”によって、この取材のように皆さんに注目をいただけるようになっているのだと思います。

500種類を超えるポスター「心の中の原風景」を求めて海外出張も

ポスター制作時に大切にされている考え方があれば教えてください

横田：表面的には気づきにくい部分ですが、毎回紙の種類を変えたり、印刷の版数を増減したりといった工夫をしています。

クリエイティブ制作の写真撮影には必ずアートディレクターとデザイナーが同行し、その場にいるような雰囲気が伝わることを心がけて制作しています。時には蛍光色を使うなど「本当にその景色なのか」と言われる表現もありますが、「私が見た景色はこれだった」という感覚が見る方に伝わるよう表現方法を選んでいます。

【2010年12月掲載のポスター　提供：三和酒類株式会社】

【2017年4月掲載のポスター　提供：三和酒類株式会社】

また、単に「飲んでください」と売り込むようなコピーがあっても、誰も振り向いてはくれません。「皆さんと一緒にいますよ」「いいお酒ですよ」というメッセージが自然と少しでも伝われば良いと考えています。見ていて気持ちの良いものでなければ注目していただけない、というのがスタート地点です。これを心がけて継続的に制作しています。

写真はどこで撮られているのですか

横田：撮影地は日本国内もありますが、海外が多いです。国内は開発が進んでいて、私たち日本人が求めている「心の中の原風景」が、あまり残っていないというのが理由にあります。

また、広がりのある写真を撮影しようとすると、日本では電柱や電線などが画面に入ってしまい、広大な自然や大地のある北海道や沖縄など限られた地域になってしまいます。40年続けていますので、撮影した場所は年間13枚、40年で500種類（500箇所）を超えており、日本だけでは場所が足りないということもあります。